Q1 橋本病の原因は何ですか?

A1 橋本病は、自分の体を守るための免疫が、本来反応しないはずの自分の甲状腺に異常に反応してしまうことによって起こる病気です。遺伝的な体質とストレスなどの環境要因が関係して、そのような免疫異常が起こると考えられています。

橋本病の原因

[解説]
橋本病は、バセドウ病と同じ自己免疫(メモ:→ 自己免疫と自己抗体)によって、甲状腺に慢性の炎症が起きる病気です。甲状腺に対して自己免疫が起こる原因についてもバセドウ病と同様で、第一に橋本病を発病しやすい遺伝的な体質を持っていることがあげられます。ただしそういう体質を持っているからといって必ずしも発病するわけではありません。遺伝的な体質に加えて、環境要因が加わって発病してくると考えられています。発病の誘因としてよく見られるのは、出産や大きなストレスのほか、ヨードの過剰摂取などがあります。

Q2 橋本病ではどのような症状が現れますか?どのような注意が必要ですか?

A2 典型的な橋本病では甲状腺全体が硬いゴムのような硬さになり、大きく腫れてきます。橋本病の4 – 5人にひとりは甲状腺機能低下症を伴っており、この場合は顔や手がむくむ、あまり食べないのに太る、寒がり、便秘がちといった症状が現れます。

[解説]
橋本病の症状は甲状腺の慢性炎症による甲状腺の腫れと、甲状腺機能低下症による全身的な症状とに分けられます。

甲状腺に対する自己免疫により、免疫担当細胞であるリンパ球が甲状腺内に入り込み、びっしりと球状に集まってリンパ濾胞と呼ばれる塊を作ります。また、甲状腺細胞の集合である濾胞と濾胞の間の結合組織が増殖します。これは線維化とよばれ甲状腺は硬さを増します。これらの変化の結果、甲状腺は硬く腫れてきます。

甲状腺の腫れはびまん性と呼ばれる甲状腺全体が大きくなる腫れ方で、その大きさはほとんど健康な方と変わらない方もあれば、通常の20倍あるいはそれ以上の大きさにまで腫れてくる方があります。典型的な場合は、硬いゴムのような硬さになります。逆に、免疫反応の出かたの違いにより、正常の大きさよりも縮んでしまうことも時にあります。

さらに、甲状腺細胞の性質が変化し、甲状腺ホルモンを合成、分泌する機能が低下してゆき、甲状腺機能低下症が現れます。甲状腺ホルモンが不足すると、多くの臓器で新陳代謝が低下し、エネルギー消費が少なくなり、体温も少し下がります。その結果、顔や手がむくむ、あまり食べないのに太る、寒がり、便秘がちといった症状が現れます。

ただ、橋本病の方のうち甲状腺機能低下症になるのは4 – 5人にひとりで、残りの方の甲状腺機能は正常に保たれており、甲状腺機能低下症の症状は現れません。また、甲状腺機能低下症を伴っている方でも、甲状腺ホルモンの低下が軽い場合は全く症状を訴えない方も多く、橋本病が見逃されやすい理由のひとつになっています。

Q3 甲状腺ホルモンがわずかに低い(潜在性甲状腺機能低下症)といわれました、どのように対処すればよいでしょうか?

A3 妊娠中の方は、すぐに甲状腺ホルモン剤の内服を開始してください。妊娠中でなく、TSH値が10μU/mlより低く、高血圧、糖尿病、高脂血症なのど動脈硬化を促進する病気を持っていなければ、必ずしも治療の必要はありません。

[解説]
潜在性甲状腺機能低下症と判定される検査結果を示す場合には大きく2通りあり、ひとつは甲状腺の病気によるもので、もうひとつはうつ状態や肝硬変、腎不全などの重症の病気によって二次的に起こるもので、これはNTI(→メモ: NTI)と呼ばれます。NTIについては、原因となった他の病気がその根本にありますから、基本的には甲状腺ホルモン剤を補充する対象にはなりません。一方、甲状腺の病気で潜在性甲状腺機能低下症の原因としてよく見られるのは、橋本病、腺腫様甲状腺腫、甲状腺の手術後、アイソトープ治療後などがあります。潜在性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンそのものは正常範囲にありますので、ほとんど症状は現れません。甲状腺ホルモン剤の補充を行うべきかどうかについて非常に多くの研究がなされ、それらを根拠として現在一般的に認められている治療方針をまとめました。

1. 甲状腺ホルモン剤の補充が必要

  • TSHが10μU/mL以上
  • 妊娠中(妊娠中はTSHの正常上限が非妊娠時と異なります)、または近い将来に妊娠を希望している

2. 甲状腺ホルモン剤の補充が勧められる

  • TSHが10μU/mLより低い値であっても、脂質代謝異常、糖尿病、喫煙、高血圧などの動脈硬化のリスクを有する

3. 甲状腺ホルモン剤の補充を考慮しても良い

  • 甲状腺機能低下症の症状がある
  • 甲状腺腫が大きい
  • 甲状腺自己抗体が陽性
  • 不妊症

4. 甲状腺ホルモン剤の補充に際して注意が必要

  • 臨床的に明らかな冠動脈疾患を有する場合は、治療により動脈硬化の進展リスクを減らせるが、虚血性心疾患の症状を誘発する可能性もある
  • 80歳以上で、一般には甲状腺ホルモン剤の補充は行わずに経過観察とする
  • 75歳以上では、甲状腺ホルモン剤を投与する場合、TSH 6 – 7 μU/mLを治療目標とする

潜在性甲状腺機能低下症が見つかった時の実際の対処の仕方ですが、妊娠している場合は、すぐに甲状腺ホルモン剤の内服を開始してください。妊娠中に母体の甲状腺ホルモンが不足すると、流死産のリスクとなります。妊娠していなければ、1~3か月後にもう一度血液検査を行います。この時、もしヨードを多く含んだ食品を頻繁に摂るような食生活をしている場合は、ヨード過剰による甲状腺機能低下症の可能性がありますので、そのような食品をを控えて、再検査を受けてください。その時にTSHが正常になっていれば、引き続き3-6か月ごとに甲状腺機能の確認を受けてください。再検査でもTSHが10 μU/mL以上であれば甲状腺ホルモン剤の内服が必要です。再検査でもTSHは高いが、10 μU/mLより低い場合は、動脈硬化症を促進する因子、すなわち高血圧、糖尿病、高脂血症がないかどうか、喫煙しているかどうかを確認し、ひとつでも該当すれば甲状腺ホルモン剤の内服が必要です。これらの条件に当てはまらない場合は、上記の[甲状腺ホルモン剤の補充を考慮しても良い]に該当するかどうか確認し、担当医と治療方針について相談してください。

[メモ: NTI]
NTIはNonthyroidal illnessを略した名称で、そのまま日本語に訳すと非甲状腺疾患となりますが、日本語の病名としては低T3症候群が一般的です。甲状腺以外の病気すなわち非甲状腺疾患が原因で、血液中の甲状腺ホルモンに異常がみられる状態を表す病名です。甲状腺そのものには異常がありません。たとえば、腎不全、肝不全、悪性腫瘍の末期などの重症疾患、拒食症、それから最近多くなっているうつ病や強い精神的なストレスなどによって起こります。NTIでは、血液中のT3が低下してきますので、低T3症候群とも呼ばれるのです。重症になるとT4も下がってきます。TSHは上昇する場合も、低下する場合も両方ありますが、低下するもののほうが多くみられます。TSHの異常は通常は軽度ですが、0.01未満といったかなり低い値や、20を超えるような明らかに高い値の出る場合が2 – 3%に見られます。
血液中のT3は、その多くは肝臓や腎臓で甲状腺から分泌されたT4を材料として作られるます。このT4からT3への変換がこれらの病気で低下するためにNTIが起こります。したがって、軽いNTIではT4は正常でT3だけが低下しますが、さらに進行すると視床下部、脳下垂体の機能異常も加わり、T4も低下してきます。
NTIでは甲状腺自体には問題はありませんので、治療の必要はありません。甲状腺機能低下症とまちがわれないことが大切で、FT3が低いのに、TSHは正常か、むしろ低い時は注意してください。

Q4 子どもに橋本病が遺伝するのではないかと心配です。どうなのでしょうか?

A4 橋本病の原因は甲状腺に対する自己免疫です。そして、橋本病を発病しやすい遺伝的な体質に加えて、環境要因が加わって発病してくると考えられています。つまり橋本病を発病しやすい体質は遺伝するということです。繰り返しになりますが、橋本病を発病しやすい体質を受け継いだからといって、必ず橋本病を発病するというわけではありません。

橋本病は思春期以降に発病することが多いため、この頃に一度調べるのがよいでしょう。思春期以前でも甲状腺の腫れや甲状腺機能低下症の症状が認められれば検査を受けた方がよいでしょう。子どもでは甲状腺機能低下症が原因で、身長の伸びが急に緩やかになるといった変化が現れることがあります。このような兆候があれば一度検査を受けることをお勧めします。受診時は、甲状腺機能検査だけでなく、TgAbとTPOAbの測定、超音波検査もできるだけ受けるようにしてください。受診時に甲状腺機能が正常であっても、将来甲状腺機能異常が現れる可能性があるかどうかについてもある程度推測できます。

Q5 どんな時に橋本病やバセドウ病は悪くなるのですか?

A5 バセドウ病や橋本病の原因は自己免疫ですので、免疫反応が強くなるようなことがあると悪化します。よく知られている要因を以下にまとめました。

[ストレス]

バセドウ病の悪くなるきっかけとして、もっとも良く見られるのはストレスです。薬の効きが悪くなったり、急にホルモンが上がったりした時に最近の出来事について確認すると、何らかのストレスのあった方が多いのです。たとえば、転職、結婚、離婚、本人や子どもの受験、看護、配偶者の死亡などです。社会生活を送っている以上、ストレスから逃れることはできませんので、同じ事柄でもストレスと感じないもののとらえ方、身の処し方が必要です。

[出産]

血を分けた子どもといっても、他人である夫の特質も受け継いでいる胎児は母体にとっては体に入り込んだ一種の異物なのです。そのため妊娠中は胎児が異物として拒絶されないように免疫が抑制されています。出産後はその免疫の抑制が解除されて免疫反応が強くなり、それにともなって自己免疫も強くなります。バセドウ病の妊娠、出産後の経過を見ると、妊娠中は免疫の抑制の影響でバセドウ病は軽くなることが多く、抗甲状腺薬の内服量も少なくなったり、内服が不要になったりします。しかし、産後は自己免疫が強くなり、産後3から9か月頃にかけて悪くなることがたびたび見られます。そのために、産後1から2か月には甲状腺機能の確認が必要です。そして、その時に異常がなくても産後9か月ころまでは、2から3か月毎に検査を受けておきましょう。同じように、橋本病は産後1から3か月の早い時期に悪化する可能性が高く、無痛性甲状腺炎を起こしたり、甲状腺機能が低下したりします。

[花粉症]

花粉症は花粉に対するアレルギー反応によって起こることはよくご存知でしょう。花粉症などのアレルギーの病気で起こっている免疫反応は、バセドウ病の自己免疫反応と似通っていているために、花粉症にかかるとバセドウ病の病状が悪化することがあります。花粉症を伴っているバセドウ病の方は、花粉症に対する抗アレルギー剤などの治療も併せて受けておく事をお勧めします。橋本病の自己免疫反応は、花粉症の免疫反応とやや異なるため、それほど影響は受けないようです。

[ヨード]

海藻類などに多く含まれる食事中のヨードや、うがい薬、造影剤、アミオダロンという不整脈の薬などに含まれるヨードは、甲状腺機能と自己免疫に影響を与える要因のひとつです。バセドウ病では、薬が効きにくくなることがありますし、橋本病では甲状腺機能が低下してくることがあります。平均的な食生活の中でのヨード制限は基本的には必要ありませんが、過剰にはとらないようにしましょう。

[インターフェロン]

B型・C型慢性肝炎の治療でインターフェロンが使われた場合、治療開始後2?6か月でバセドウ病が悪化したり、橋本病では無痛性甲状腺炎を起こしたり、機能低下症になったりすることがあります。インターフェロン治療を行う際には、事前に甲状腺の状態を調べ、治療開始後も定期的な検査を行いますので見逃されることは通常ありませんが注意してください。バセドウ病や橋本病が悪化する可能性はかなり高いですが、インターフェロン治療が必要な場合は、肝臓がんの素地となるB型・C型慢性肝炎の治療を優先して受けてください。バセドウ病や橋本病の悪化に対しては十分に対応できます。

[ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(GnRHアゴニスト)]

主に婦人科で使用される薬です。この薬を使うと脳下垂体に働きかけて、結果として卵巣機能が低下します。女性ホルモンは減少し、排卵や月経が止まります。子宮内膜症や子宮筋腫は女性ホルモンを低下させると改善するために、この薬が治療に用いられます。

この薬によって女性ホルモンが急に低くなると、免疫反応が強められる現象がおこります。そのためにバセドウ病や橋本病が悪化することがあります。バセドウ病が悪化するのは投与開始後数か月から1年程度してから、橋本病で炎症が強くなってホルモンが高くなるタイプのものは投与開始2~4 か月で悪化することが多いと言われています。ただし、すべての人で悪化するわけではありません。バセドウ病や橋本病で治療を受けている方で、この薬の投与を受けることになった場合は、甲状腺の担当医にも伝えておきましょう。

[副腎皮質ステロイド剤の急な中止]

副腎皮質ステロイド剤は免疫および炎症を抑える作用のある薬で、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、気管支喘息など非常に多くの病気の治療に使われます。副腎皮質ステロイド剤を急に中止した時にバセドウ病や橋本病が悪化することがあります。副腎皮質ステロイド剤によって抑えられていた免疫が、薬がなくなったことにより、その反動として反対に免疫反応が強くなってしまうためです。副腎皮質ステロイド剤の量を減らすことでも同様にバセドウ病や橋本病の病状が変化することがありますので注意が必要です。