岡本甲状腺クリニック

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甲状腺と妊娠・不妊治療

橋本病の女性の妊娠について

橋本病の女性の妊娠について

橋本病であっても正しく管理することにより、健康な女性とかわりなく、妊娠、出産ができます。橋本病の方の妊娠について知っておいていただきたいことをまとめました。

■明らかな不妊の原因にはならないが、流産、早産がわずかに多いので注意が必要

橋本病であっても、甲状腺機能が正常であれば明らかな不妊の原因にはなりません。しかし、一般の妊婦に比べて流産や早産がわずかに多いとの報告があります。それは、橋本病の方は妊娠前に甲状腺機能が正常であっても、妊娠経過中に甲状腺機能が低下しやすいことがひとつの原因ではないかと考えられています。妊娠中に甲状腺機能低下の傾向があれば甲状腺ホルモン薬の服用を開始して流産、早産のリスクを回避します。

■母体からの甲状腺ホルモンは胎児の発達に大切な働きをしている

妊娠初期は、胎児はまだ自分で甲状腺ホルモンを作ることができないため、母体からの甲状腺ホルモンをもらって成長しています。そして、母体からの甲状腺ホルモンは胎児の発達に大切な働きをしており、妊娠初期に甲状腺機能低下症の状態にあると、子どもの発達に影響するとの報告があります。

■妊娠に備えて

1.甲状腺機能正常の方
(当院では妊娠可能年齢の女性のTSH正常範囲の上限は4.0と少し厳しく設定しています)
  • 妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が増加します。妊娠していないときに甲状腺機能が正常であっても、妊娠するとその増加分をまかなえずに甲状腺機能が低下してくる場合があります。TSHが正常範囲であっても上限の4.0を時々超えることがある方は、妊娠に備えてあらかじめ甲状腺ホルモン薬の服用を始めておくとより安心です。
2.潜在性甲状腺機能低下症の方
  • 甲状腺ホルモン薬を服用せずに経過観察をしている潜在性甲状腺機能低下症の方は、近い時期の妊娠を計画した時点で甲状腺ホルモン薬の投与を開始しますので申し出てください。すでに甲状腺ホルモン薬を服用している方はTSHを2.5以下の値にしておくとより安心です。
3.甲状腺機能低下症のために甲状腺ホルモン薬を服用している方
  • 甲状腺ホルモン薬を服用して甲状腺機能を正常に維持することは妊娠計画の有無に関わらず大事ですが、近い時期の妊娠を考えている方はTSHを2.5以下の値にしておくとより安心です。

■妊娠したことが分かったら

甲状腺ホルモン薬を服用している方も、そうでない方も妊娠が分かったら早期に受診して甲状腺機能の確認を受けてください。妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量は30%程度増加するので、妊娠前から甲状腺ホルモン薬を服用している場合も服用量が適切かどうかの確認が必要です。甲状腺ホルモン薬を服用している方で、すぐに受診ができない場合は週のうち2日だけ通常の2倍の量を服用してください。そうすることで服用量を30%増やした時と同等の量になります。

甲状腺機能低下症と妊娠

甲状腺機能低下症と妊娠

甲状腺機能低下症であっても甲状腺機能を正しく管理することにより、健康な女性とかわりなく妊娠、出産できます。妊娠希望女性の甲状腺機能管理について解説します。

■甲状腺機能の判定

甲状腺機能はFT4とTSHの組み合わせで判定します。当院のTSHの正常範囲は0.41~4.23μU/mLですが、これから妊娠を希望する女性は0.41~4.0μU/mLと少し厳しい範囲に設定しています。また、健康な人の80%以上はTSH 2.5μU/mL以下です。

■妊娠前の方の治療開始基準

当院のこれまでの診療データ、国内外の研究報告やガイドライン等を総合して、次のような目安を設けています。2回以上測定している場合、どの値を重視するかは個別に判断します。

FT4が正常範囲より低く、TSHが4.0より高い甲状腺機能低下症の方は甲状腺ホルモン薬服用が必要です。FT4が正常範囲内の場合はTSHと抗体(TgAbまたはTPOAb)の有無によって対応が分かれます。
自然妊娠を望んでいる女性
  • 1. TSH 4.0以下で抗体(-)→ 治療不要
  • 2. TSH 4.0以下で抗体(+)→ 経過観察
  • 3. TSH 4.0より大 → 甲状腺ホルモン薬服用推奨
タイミング法、人工授精による不妊治療を行っている、またはその予定
  • 自然妊娠に準じる、または体外受精・顕微授精に準じる(個別に判断)
体外受精、顕微授精による不妊治療を行っている、またはその予定
  • 1. TSH 2.5以下で抗体(-)→ 治療不要
  • 2. TSH 2.5以下で抗体(+)→ 経過観察
  • 3. TSH 2.5~4.0で抗体(-)→ 経過観察
  • 4. TSH 2.5~4.0で抗体(+)→ 甲状腺ホルモン薬服用推奨(特に35歳以上や2回以上流産繰り返し)
  • 5. TSH 4.0より大 → 甲状腺ホルモン薬服用推奨
  • (注)甲状腺ホルモン薬服用を開始した方、経過観察となった方で妊娠反応陽性になったときは、妊娠7週の時期に甲状腺機能検査を行いますので受診してください。

■甲状腺ホルモン薬を服用していない方の、妊娠が判明した時の治療開始基準

妊娠6週まで(TSH正常範囲は4.0以下)
  • 1. TSH 2.5以下で抗体(-)→ 治療不要
  • 2. TSH 2.5以下で抗体(+)→ 経過観察
  • 3. TSH 2.5~4.0で抗体(-)→ 経過観察
  • 4. TSH 2.5~4.0で抗体(+)→ 甲状腺ホルモン薬服用推奨
  • 5. TSH 4.0より大 → 甲状腺ホルモン薬服用推奨
妊娠7~14週(TSH正常範囲は3.5以下)
  • 1. TSH 2.5以下で抗体(-)→ 治療不要
  • 2. TSH 2.5以下で抗体(+)→ 経過観察
  • 3. TSH 2.5~3.5で抗体(-)→ 経過観察
  • 4. TSH 2.5~3.5で抗体(+)→ 甲状腺ホルモン薬服用推奨
  • 5. TSH 2.5~3.5で2回以上流産繰り返し → 甲状腺ホルモン薬服用推奨
  • 6. TSH 3.5より大 → 甲状腺ホルモン薬服用推奨
妊娠15週~
  • 妊娠6週までと同じ方針

■甲状腺ホルモン薬服用について

妊娠前、妊娠判明後のどの時期においても、甲状腺ホルモン薬を服用している方に対しては、TSH 2.5以下(余裕を見て1~1.5を目標)になるように服薬量を調整します。妊娠中も安心して服用できる薬です。

メルカゾール、プロパジール服薬中の妊娠

メルカゾール、プロパジールと妊娠

バセドウ病は自己免疫により甲状腺を刺激する抗体(TRAb)が作られ、TRAbが甲状腺を刺激するために甲状腺ホルモンの分泌が過剰になる病気です。TRAbは胎盤を通って胎児の甲状腺も刺激します。母体が抗甲状腺薬を服用していると、抗甲状腺薬は胎盤を通って胎児が甲状腺機能亢進症にならないように働いてくれます。ただ、TRAbがかなり高いと胎児の甲状腺機能亢進症を抑えきれないことがありますので、妊娠はTRAbがある程度下がってからが安心です。

■抗甲状腺薬による奇形について

妊娠4~15週の時期(特に5~9週)の妊婦がメルカゾールを服用すると、子どもに臍腸管遺残(さいちょうかんいざん)、臍帯(さいたい)ヘルニアという臍(へそ)に関連した奇形や、頭の皮膚の一部分がない頭皮欠損などがまれに発生します。日本の調査ではその頻度は4.1%でした。16週以降の服用は問題なく、妊婦の夫がメルカゾールを服用している場合も影響ありません。一方、プロパジール、チウラジールの場合ですが、わずかに先天異常の確率が高まるとの海外の報告がありますが、日本ではそのような影響は確認されていません。

■治療方針

近い将来(目安として1年以内)に妊娠を希望する女性
  • 1.これから治療を始める方
    バセドウ病の治療薬としてはメルカゾールの方が優れています。バセドウ病の重症度はどの程度か、妊娠をどの程度急いでいるのか、などを考慮して次の①~③のいずれかの方針で治療を開始します。
    ① メルカゾールで治療を開始し、1日5mg程度またはそれ以下の量で甲状腺機能が正常で安定したら妊娠を許可します。妊娠4週の早期に妊娠の有無を確認できる体制をとり、妊娠が判明したら直ちに服用を中止します。より慎重には、予想される月経開始日の2~3日前からメルカゾールを休薬し、月経が来ればメルカゾールを再開します。月経が来ず妊娠反応陽性の場合は休薬したままで受診してください。不妊治療を受けている方は、妊娠4週に該当する日からメルカゾールを休薬します。
    ② メルカゾールで治療を開始し、甲状腺機能が十分コントロールできた段階でプロパジールに切り替えます。プロパジールで副作用がなく、甲状腺機能も良好なら妊娠を許可します。
    ③ プロパジールで治療を開始し、甲状腺機能が正常で安定したら妊娠を許可します。
  • 2.メルカゾールを服用中の方
    上記の①または②に準じた方針とします。
  • 3.プロパジールが副作用で使用できないため、メルカゾールを服用している方
    可能であれば、上記の①の方針とします。メルカゾールの服用量が多い場合は、奇形のリスクを理解した上でメルカゾールを続けるのか、手術またはアイソトープ治療を行うのかの判断が必要です。
抗甲状腺薬服用中に妊娠が判明した女性
  • 1.プロパジール服用中に妊娠した方
    そのままプロパジールの服用を続けます。服薬を中断するとバセドウ病悪化の恐れがあります。甲状腺機能検査を行いますので受診してください。
  • 2.メルカゾール服用中に妊娠した方
    メルカゾールと関連する奇形のほとんどは生後の手術によって良くなるものですので、中絶はお勧めしません。妊娠の判明が妊娠16週以降であれば、そのままメルカゾールを継続します。それ以前の妊娠週数の場合は、少量のメルカゾールで良好なコントロールのときはいったん休薬してみます。服薬中止が難しい病状のときはプロパジールに変更、または無機ヨウ素剤のヨウ化カリウム丸に変更します。
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