病気について

バセドウ病

バセドウ病とその治療

バセドウ病は、本来自分の体を守るための免疫が自分自身の甲状腺に反応して起こる病気です。この免疫反応は自己免疫と呼ばれます。自己免疫により甲状腺を刺激する抗体が作られ、その刺激により甲状腺ホルモンが過剰に分泌されます。甲状腺に対する自己免疫が起る原因は遺伝的な体質が関係しており、それに加えて、ストレスなどの環境要因が加わって発病してくると考えられています。
血液中の甲状腺ホルモンが過剰になると、全身の新陳代謝が盛んになり、また自律神経のひとつである交感神経の働きが異常に活性化されます。その結果、過剰な発汗、暑がり、手の震え、動悸、食欲増加、体重減少などの症状が現れます。また眼が出てきたり、まぶたがつり上がったりする症状が現れることもあります。

治療

バセドウ病には3つの治療法があります。一つ目は、抗甲状腺薬という薬で甲状腺ホルモンの合成を抑え、血液中の甲状腺ホルモンを正常にする治療です。二つ目は、放射線を出す性質を持たせたヨウ素(放射性ヨウ素)のカプセルを飲む治療で、アイソトープ治療と呼ばれます。服用した放射性ヨウ素は甲状腺に取り込まれ、そこで放射線を出して甲状腺を壊します。三つ目は手術で、甲状腺を少しだけ残して残りを切り取ります。それぞれの治療法の特徴は次のとおりです。
  1. 抗甲状腺薬(メルカゾール錠5mg、プロパジール錠50mg、チウラジール錠50mg)
    • 長所:アイソトープ治療や手術で高頻度に起こる永続性の甲状腺機能低下症を起こすことはない。
    • 短所:副作用の頻度が比較的高い薬である。薬の効果は個人差が大きく、短期間で良くなって薬をやめられる人、効きが悪く数年またはそれ以上の長期に渡って服薬を続ける人もいる。服薬を終了できたあとも再燃・再発が少なくない。
  2. アイソトープ治療
    • 長所:効果が確実で、治療成功後は再発しない。甲状腺の腫れが小さくなる。副作用の心配がない。
    • 短所:治療の前後に合わせて1~2週間程度、食事制限などの日常生活の制限が必要(入院は不要)。甲状腺機能低下症に移行し、生涯に渡って甲状腺ホルモン剤の服薬を必要とすることが多い。
  3. 手術
    • 長所:手術後すぐに甲状腺機能正常になる。甲状腺の腫れがなくなる。
    • 短所:入院が必要。手術方法によるが、甲状腺機能低下症になり、生涯に渡って甲状腺ホルモン剤の服薬を必要とすることが多い。傷跡が少し残る。手術合併症の危険性がある。

バセドウ病は治るか

抗甲状腺薬の場合、1~2か月後には甲状腺ホルモンはほぼ正常になります。その後徐々に服用量を減らし、2~3年経つと約半数の方は薬を中止できます。ただ、服薬を中止できたあとも、1年以内に3割程度の方が再燃し、薬の再開が必要になります。1年以上経ってから再発してくる方もあります。
抗甲状腺薬の服用を2~3年続けても中止できない方は、さらに抗甲状腺薬を継続するか、アイソトープ治療や手術に変更するかどうかを相談します。副作用のために抗甲状腺薬を服用できない場合は、手術やアイソトープ治療を行います。
アイソトープ治療や手術では、ほとんどの場合甲状腺機能亢進症は治ります。ただし、甲状腺を無くしてホルモンを出なくする治療ですので、多くの場合、生涯にわたって甲状腺ホルモン剤の服用が必要になります。

抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の副作用

副作用は服用開始後3か月以内に起こることがほとんどで、その間は2~4週に一度副作用がでていないかどうか診察で確認します。それ以降は副作用の頻度はかなり低くなります。いずれの副作用も適切に対処すれば問題ありませんが、無顆粒球症や重症の肝障害、血管炎は対処が遅れると生命にかかわる危険なものです。
  1. 無顆粒球症
  2. 白血球の中の「顆粒球」が極度に減少する副作用です。細菌に感染しやすくなり、全身に影響する重症の感染症を起こします。頻度は0.1~0.5%とまれで、服用開始から2週程度経った頃から3か月以内の間に起こることがほとんどです。服薬開始から数日以内に起こることはまずありません。一方、長期間問題なく服用していた方であっても、4~5か月以上服用を止めて、再び飲み始めたときに起こることがあります。初期症状として、かぜや急性扁桃腺炎のような38度を超える発熱やのどの痛み、全身けん怠感などが現れます。このようなときは直ちに服用を中止して受診してください。顆粒球数が低下していない場合は無顆粒球症ではなく、かぜなどの原因に応じた対処を行います。無顆粒球症であれば入院が必要です。
  3. 薬疹
  4. 頻度の高い副作用で、かゆみのある赤い発疹(ほっしん)です。服用を中止して、1週間以内に受診してください。軽症の場合は服薬を中止するだけでおさまります。中等症以上の場合はかゆみ止めの抗ヒスタミン薬や副腎皮質ステロイド薬の服薬で抑えます。遠方の方は近くの皮膚科を受診していただいても結構です。
  5. 肝障害
  6. 軽度の肝障害では自覚症状は無く、血液検査でしか分かりません。頻度はメルカゾールが約7%、プロパジールが30%弱と、プロパジールで高頻度です。軽度の肝障害は一過性の場合も多く、抗甲状腺薬を継続しながら慎重に経過を観察します。一過性ではないと判断した時は服薬を中止します。服薬を中止すればほとんどの場合自然に回復します。まれに生命にかかわる重症の肝障害が起こることがあります。症状は黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)、全身けん怠感、吐き気、食欲不振などです。けん怠感などはバセドウ病の悪化でもみられますので、血液検査を行って重症の肝障害なのかどうか判断します。
  7. 血管炎(特にプロパジール、チウラジール服用の方)
  8. 全身の小さな血管に炎症が起こるまれな副作用で、プロパジールによる発症がほとんどです。血管炎は投薬期間に関連なく発症の可能性があり、むしろ1年を超えてから発症する場合の方が多いことが知られています。発症早期は発熱,全身けん怠感,食欲不振,体重減少などの他の感染症などでもみられるありふれた症状が現れます。さらに、血管はあらゆる臓器にありますので、血管炎の起こった臓器ごとに様々な症状が現れます。腎臓では血尿や蛋白尿、肺では喀血や呼吸困難、皮膚では皮膚潰瘍や紫斑、関節では腫れや痛み、眼では飛蚊症や充血、筋肉では筋肉痛などが現れます。血管炎が起こった場合は直ちに抗甲状腺薬の服用を中止し、血管炎の起きた臓器ごとに必要な処置を行います。

日常生活上の注意点

バセドウ病に対して抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール)またはヨウ化カリウム丸の服用を開始した方の日常生活での注意点をあげました。

服薬

決められたとおりに服薬しないと甲状腺ホルモンの過剰が改善せず、症状もなかなかとれません。薬の量の調節も難しくなります。薬は忘れずに服用するよう努めてください。服薬時間は習慣づけやすいように食後としていますが、服薬を忘れた事に気づいたときは食後や空腹時にかかわらず気づいた時点で忘れた薬を服薬してください。メルカゾール、プロパジールの副作用は、服薬を開始して3か月以内に起こることがほとんどです。この間は特に副作用に注意してください。ヨウ化カリウム丸については注意すべき副作用はありません。

他の病気の治療

他の病気の治療薬については、抗甲状腺薬およびヨウ化カリウム丸と併用することで、副作用が出やすくなったり、おかしな効果が現れたりするようなことはありません。ただ、甲状腺ホルモンが高いことそのものにより効果が変わってしまったり、副作用が出やすくなる薬があります。甲状腺ホルモンが高いと、血を固まりにくくする抗凝血剤の効き目が強く現れたり、歯科で使用する麻酔注射で動悸を強く感じたりすることがあります。これらの治療を受けている、あるいは予定している場合は、バセドウ病担当の医師および他の病気の担当の医師に対応を確認してください。

日常生活全般

甲状腺ホルモンが正常になるまでは、睡眠時間を十分にとり、規則的な生活が望まれます。ゆとりを持った行動をとることが大事です、例えば出勤は10分早く家を出て急ぎ足にならないようにする、重いものを持って長距離を歩かない、買い物から帰って家事をする場合も少し休んでから取りかかるなどです。この病気はストレスにより悪化することがあります。社会生活を送っている以上、ストレスから逃れることはできませんので、重要でないことはできるだけ受け流してストレスと感じないもののとらえ方、身の処し方を心がけてください。

仕事

甲状腺ホルモンが高い間は心身に負担のかからないような配慮が望まれます。ハードな肉体労働の方は可能であれば一時的に負担の軽い作業への変更を申し出てください。事務作業でも密度の濃い仕事が長時間におよぶ場合は勤務時間を減らしたり、適切な間隔で休憩を入れるなどの対処を考えてください。甲状腺ホルモンが高い時期は眼も疲れやすくなっていますので、コンピューターの画面を長時間見る作業では、時々眼を休ませてください。

運動

甲状腺ホルモンが高い間は激しい運動は控えてください。甲状腺機能が正常に戻ったら、軽い運動から始めて徐々に体をならしましょう。甲状腺ホルモン過剰のために低下した筋力も甲状腺機能が正常になれば徐々に回復します。甲状腺機能が正常で安定して、体力も元に戻れば運動の制限は一切ありません。

嗜好品

喫煙者は眼球突出が多い、病気が治りにくいことがわかっていますので、時間はかかっても必ず禁煙してください。アルコールはバセドウ病の治療経過には直接影響しませんが、甲状腺ホルモンが高い間は酔わない程度のほどほどに控えましょう。

海藻類

海藻類を制限する必要はありません。

抗甲状腺薬を長期間やめられない時

抗甲状腺薬を決められたとおりに服用していると、約半数の方は2~3年で服薬をやめられる状態になります。2~3年経っても抗甲状腺薬を最少量まで減量できずにやめられない場合、そのまま抗甲状腺薬の服用を続けるのか、それともアイソトープ治療や手術に治療を切り替えるのかについて、ご自身で考えていただく必要があります。治療法を選択する上でのポイントをまとめました。

抗甲状腺薬の継続

抗甲状腺薬の服用により甲状腺機能が正常で安定している場合は問題なく日常生活を送ることができますので、そのまま服薬を続けるのも一つの選択肢です。メルカゾールを長期間服用することで起こりやすくなる副作用はありません。プロパジールの場合は服薬期間に関係なく血管炎という副作用がまれに起こることがあります。10年以上服用している方でも可能性はあります。したがって、妊娠準備などでプロパジール服用を始めた方で、今後の妊娠予定がなくなっていれば、安全性の観点からメルカゾールに切り替えることも検討したほうが良いでしょう。甲状腺の腫れが大きい方、病気の活動性が強く多量の抗甲状腺薬服用が必要な方、甲状腺機能が変動しやすい方、妊娠を希望しているがプロパジールが副作用で服用できない方などはアイソトープ治療や手術が勧められます。

アイソトープ治療への変更

アイソトープ治療は、放射線によって甲状腺を壊す治療です。甲状腺ホルモンの材料であるヨウ素に放射線を出す性質を持たせ(放射性ヨウ素)、それを服用します。放射性ヨウ素は甲状腺に集まり、放射線を出して甲状腺を壊すことにより甲状腺ホルモンを低下させます。カプセルを1回飲むだけの簡単な治療で、入院の必要もありません。発がん性の心配はなく、治療後の妊娠も可能です。甲状腺を破壊してホルモンを出さないようにする治療ですので、治療後はある時期から生涯に渡る甲状腺ホルモン剤の服用が必要になります。アイソトープ治療後の甲状腺機能低下症は、安定して甲状腺機能を正常に保つことができますし、甲状腺ホルモン剤には副作用もありません。妊娠希望の女性の場合、アイソトープ治療を行ったあとは6か月間の避妊を要します。検査値の安定が得られるまで、アイソトープ治療後1~2年程度妊娠を待っていただく場合があります。

手術への変更

甲状腺を少しだけ残して甲状腺を摘出します。最も確実な治療法で、約1週間の入院が必要です。手術の合併症には、声のかすれ、低カルシウム血症(手や唇のしびれ)、手術後の出血などがあります。熟練した専門医が手術すれば一時的なものはあっても、永続的な合併症の頻度はわずかです。手術後の甲状腺機能については、どのくらいの甲状腺組織を残すかによって変わります。残す甲状腺の量を少なくすれば、再発はかなり防ぐことができますが、甲状腺機能低下症になる頻度が高くなります。残す量を多くすればその逆で再発の可能性が高くなります。手術する以上は再発を避けたいので、甲状腺機能低下症を目標に手術が行われることが多くなっています。甲状腺機能低下症になった場合は、甲状腺ホルモン剤を生涯に渡って服用する必要がありますが、安定して甲状腺機能を正常に保つことができますし、甲状腺ホルモン剤には副作用もありません。手術後は甲状腺機能が正常で安定していれば、いつでも妊娠可能です。