Q3 甲状腺ホルモンがわずかに低い(潜在性甲状腺機能低下症)といわれました、どのように対処すればよいでしょうか?

A3 妊娠中の方は、すぐに甲状腺ホルモン剤の内服を開始してください。妊娠中でなく、TSH値が10μU/mlより低く、高血圧、糖尿病、高脂血症なのど動脈硬化を促進する病気を持っていなければ、必ずしも治療の必要はありません。

[解説]
潜在性甲状腺機能低下症と判定される検査結果を示す場合には大きく2通りあり、ひとつは甲状腺の病気によるもので、もうひとつはうつ状態や肝硬変、腎不全などの重症の病気によって二次的に起こるもので、これはNTI(→メモ: NTI)と呼ばれます。NTIについては、原因となった他の病気がその根本にありますから、基本的には甲状腺ホルモン剤を補充する対象にはなりません。一方、甲状腺の病気で潜在性甲状腺機能低下症の原因としてよく見られるのは、橋本病、腺腫様甲状腺腫、甲状腺の手術後、アイソトープ治療後などがあります。潜在性甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンそのものは正常範囲にありますので、ほとんど症状は現れません。甲状腺ホルモン剤の補充を行うべきかどうかについて非常に多くの研究がなされ、それらを根拠として現在一般的に認められている治療方針をまとめました。

1. 甲状腺ホルモン剤の補充が必要

  • TSHが10μU/mL以上
  • 妊娠中(妊娠中はTSHの正常上限が非妊娠時と異なります)、または近い将来に妊娠を希望している

2. 甲状腺ホルモン剤の補充が勧められる

  • TSHが10μU/mLより低い値であっても、脂質代謝異常、糖尿病、喫煙、高血圧などの動脈硬化のリスクを有する

3. 甲状腺ホルモン剤の補充を考慮しても良い

  • 甲状腺機能低下症の症状がある
  • 甲状腺腫が大きい
  • 甲状腺自己抗体が陽性
  • 不妊症

4. 甲状腺ホルモン剤の補充に際して注意が必要

  • 臨床的に明らかな冠動脈疾患を有する場合は、治療により動脈硬化の進展リスクを減らせるが、虚血性心疾患の症状を誘発する可能性もある
  • 80歳以上で、一般には甲状腺ホルモン剤の補充は行わずに経過観察とする
  • 75歳以上では、甲状腺ホルモン剤を投与する場合、TSH 6 – 7 μU/mLを治療目標とする

潜在性甲状腺機能低下症が見つかった時の実際の対処の仕方ですが、妊娠している場合は、すぐに甲状腺ホルモン剤の内服を開始してください。妊娠中に母体の甲状腺ホルモンが不足すると、流死産のリスクとなります。妊娠していなければ、1~3か月後にもう一度血液検査を行います。この時、もしヨードを多く含んだ食品を頻繁に摂るような食生活をしている場合は、ヨード過剰による甲状腺機能低下症の可能性がありますので、そのような食品をを控えて、再検査を受けてください。その時にTSHが正常になっていれば、引き続き3-6か月ごとに甲状腺機能の確認を受けてください。再検査でもTSHが10 μU/mL以上であれば甲状腺ホルモン剤の内服が必要です。再検査でもTSHは高いが、10 μU/mLより低い場合は、動脈硬化症を促進する因子、すなわち高血圧、糖尿病、高脂血症がないかどうか、喫煙しているかどうかを確認し、ひとつでも該当すれば甲状腺ホルモン剤の内服が必要です。これらの条件に当てはまらない場合は、上記の[甲状腺ホルモン剤の補充を考慮しても良い]に該当するかどうか確認し、担当医と治療方針について相談してください。

[メモ: NTI]
NTIはNonthyroidal illnessを略した名称で、そのまま日本語に訳すと非甲状腺疾患となりますが、日本語の病名としては低T3症候群が一般的です。甲状腺以外の病気すなわち非甲状腺疾患が原因で、血液中の甲状腺ホルモンに異常がみられる状態を表す病名です。甲状腺そのものには異常がありません。たとえば、腎不全、肝不全、悪性腫瘍の末期などの重症疾患、拒食症、それから最近多くなっているうつ病や強い精神的なストレスなどによって起こります。NTIでは、血液中のT3が低下してきますので、低T3症候群とも呼ばれるのです。重症になるとT4も下がってきます。TSHは上昇する場合も、低下する場合も両方ありますが、低下するもののほうが多くみられます。TSHの異常は通常は軽度ですが、0.01未満といったかなり低い値や、20を超えるような明らかに高い値の出る場合が2 – 3%に見られます。
血液中のT3は、その多くは肝臓や腎臓で甲状腺から分泌されたT4を材料として作られるます。このT4からT3への変換がこれらの病気で低下するためにNTIが起こります。したがって、軽いNTIではT4は正常でT3だけが低下しますが、さらに進行すると視床下部、脳下垂体の機能異常も加わり、T4も低下してきます。
NTIでは甲状腺自体には問題はありませんので、治療の必要はありません。甲状腺機能低下症とまちがわれないことが大切で、FT3が低いのに、TSHは正常か、むしろ低い時は注意してください。