甲状腺の場所、働き

甲状腺の場所

甲状腺は 喉仏(甲状軟骨)の少し下に蝶が羽を広げたような形で、気管を抱きこむように存在しています。重さは10から20gの柔らかい臓器で、病気のために腫れたり、硬くならない限り外から指で探しても触れることはできません。

甲状腺の働きは、甲状腺ホルモンを作り、血液中に分泌することです。甲状腺ホルモンは血液によって運ばれて全身の臓器・細胞に作用します。成長や発達を促し、全身の新陳代謝を調節して、生きていくために必要なエネルギーを作り出しています。

甲状腺機能を調べる血液検査

甲状腺機能はFT3、FT4、TSHの3つの検査で判定します。


[FT3、FT4: 甲状腺ホルモン]

甲状腺ホルモンには2種類あり、基本となる骨組みにヨードが3個結合したものをT3, 4個結合したものをT4と呼びます。甲状腺ホルモンは分泌されると、そのほとんどはタンパク質と結合して血液中を流れています。また、極微量ですがタンパク質と結合していない遊離型(Free)のホルモンも流れています。そして、最終的に臓器に作用するのは遊離型のホルモンです。遊離型ホルモンであるFT3やFT4を測定することで、甲状腺ホルモンの過不足を正確に知ることができます。

FT3とFT4の測定上の意味の違いですが、甲状腺から分泌されるホルモンのほとんどはT4です。T3の多くは甲状腺から分泌されたT4が肝臓などの臓器でT3に作りかえられたものです。そして、T4はホルモンとしての力は弱く、ホルモンとして細胞の働きを変える作用を持っているのはT3です。以上から、甲状腺という臓器のホルモンを作る能力を調べるにはFT4、甲状腺ホルモンの全身への作用の程度を調べるにはFT3ということになります。


[TSH: 甲状腺刺激ホルモン]

TSHは脳下垂体という場所から分泌されるホルモンの一つで、甲状腺を刺激する作用を持っています。脳下垂体は甲状腺ホルモンの量を絶えず監視していて、甲状腺ホルモンが足らないと判断するとTSHの分泌量を増やして甲状腺を刺激します。一方、甲状腺ホルモンが多いと判断すると、TSHを出さないようにして甲状腺への刺激をストップします。したがって、TSHを測定することで甲状腺ホルモンの過不足を知ることができます。

そして、僅かの甲状腺ホルモンの過不足でもTSHは敏感に反応して正常範囲を超えて高くなったり、低くなったりします。一方、FT3、FT4はこのような僅かの変化の場合は、正常範囲から大きく外れることはないため、異常値として捉えにくく、見過ごすことがあります。


[まとめ]

以上から、甲状腺ホルモンの過不足を判定するのはTSHであり、FT3とFT4は過不足の重症度を評価するために測定します。
検査結果の組み合わせとその評価を表にしました。この表に当てはまらない場合は、甲状腺以外の様々な要素を加味して判断することになります。

FT3、FT4 TSH 甲状腺ホルモン過不足の評価 甲状腺機能の表し方
低い 高い 甲状腺ホルモンは不足 甲状腺機能低下症
正常 高い 甲状腺ホルモンはわずかに不足 潜在性甲状腺機能低下症
正常 正常 甲状腺ホルモンは適量 甲状腺機能正常
正常 低い 甲状腺ホルモンはわずかに過剰 潜在性甲状腺機能亢進症
(潜在性甲状腺中毒症)
高い 低い 甲状腺ホルモンは過剰 甲状腺機能亢進症
(甲状腺中毒症)

[基準値] (正常範囲; 測定のためのキットにより異なります)
FT3 1.9 – 3.8 pg/mL
FT4 0.8 – 1.8 ng/dL
TSH 0.4 – 4.5 μU/mL


[妊娠中は異なる基準値に注意]

妊娠中は非妊娠時と異なる基準値が適応されます。さらにその基準値は妊娠の時期により変わっていきます。妊娠中の基準値は下記の通りです。
初期: 下限値は0.1程度(さらに低くなることもあります)、上限値は2.5~3.0以下
中期: 下限値は0.1~0.2程度、上限値は3.0~3.5以下
後期: 下限値は0.1~0.3程度、上限値は3.0~3.5以下

免疫異常を調べる血液検査

甲状腺にはバセドウ病や橋本病などの免疫異常で起こる病気があります。この免疫異常を自己免疫と呼びますが、自己免疫が起きると自己抗体と呼ばれる異常な抗体が作られるので、血液中のこれらの抗体の測定は病気の診断に用いることができます。


[TgAb(抗サイログロブリン抗体)]
[TPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)]

いずれも主に橋本病の診断のために測定されます。サイログロブリンは甲状腺ホルモンが作られる土台になるタンパク質で、甲状腺ペルオキシダーゼはヨードを甲状腺ホルモンの骨格に結合させる酵素タンパク質です。自己免疫によってこれらの甲状腺特有のタンパク質に自己抗体が作られます。橋本病ではTgAbは90%くらい、TPOAbは70%くらいの方で陽性になります。ただし、バセドウ病でも多くの方で陽性になります。

これらの抗体自体は体に害を及ぼすものではありませんので、抗体の値が高いことについて心配する必要はありません。サイロイドテストはTgAbと同じサイログロブリンに対する抗体を測定する検査ですが、病気の検出にはTgAbの方が鋭敏です。同じようにマイクロゾームテストは甲状腺ペルオキシダーゼに対する抗体を測定する検査ですが、TPOAbの方が鋭敏です。


[TRAb(TSHレセプター抗体)]
[TSAb(TSH刺激性レセプター抗体)]

バセドウ病の診断、治療経過の評価のために測定されます。TSHレセプターは脳下垂体から分泌されたTSHが甲状腺を刺激する時に結合するタンパク質で、細胞の表面にあります。TRAbとTSAbは測定方法が異なるために名称が異なっていますが、いずれもTSHレセプターに対する抗体です。

治療前のバセドウ病ではいずれの抗体も95%以上の方で陽性になります。バセドウ病はTRAb、TSAbが甲状腺を刺激するために甲状腺のホルモン分泌が過剰になる病気であり、バセドウ病で起きてくる様々な異常の原因そのものと言えます。したがって、TRAb、TSAbが陽性であるということはバセドウ病である最大の証拠になります。

治療によってバセドウ病が鎮まってくると、免疫異常も軽くなり、TRAb、TSAbも低下してきますので、治療経過の評価のためにも測定されます。免疫異常がおさまっているかどうかの指標になりますので、バセドウ病の薬をやめても大丈夫かどうかの判断や、薬をやめた後の再発の予想などにも参考にします。

TRAbとTSAbの使い分けですが、TRAbの方が鋭敏ですので、主にこちらを測定します。バセドウ病では眼の異常をきたすことがありますが、この眼の異常の活動性に関してはTRAbよりもTSAbの方がより強く関連していますので、このような場合の評価にはTSAbが用いられます。

自己免疫と自己抗体

人間が生活している環境には、細菌やウイルスなどの有害な微生物が充ち溢れています。それらが体内に侵入してきても排除する仕組みが生まれながらに備わっており、それが免疫です。また、免疫は外からの微生物だけではなく、正常な細胞ががん化した場合も異物として認識し、そのがん細胞を排除する役目も担っています。

免疫におけるもっとも重要な機能は、自分自身(自己)と自分以外のもの(非自己)を区別する能力です。この自己と非自己を区別する仕組みは極めて巧妙にできています。世の中には無数の外敵があり、しかもそれは絶えず変化しています。このような膨大な外敵に対して免疫を発揮するために、まず免疫を担当する細胞は胎児の段階ではあらゆるものに対して反応できる能力を備えています。そして、受精してから生まれるまでの間に、自分自身として形作られてゆく臓器、細胞に対して反応する免疫担当細胞は取り除かれてゆきます。このようにして、自己に対して反応する免疫担当細胞だけをまず排除して、それらを除いた免疫担当細胞が生き残り、外敵が侵入してきた時に反応できるようになっています。

自己免疫

ところが、何らかの原因により、自己に対して反応する免疫担当細胞が再び増殖して、自己に対して免疫反応を起こすことにより体に障害を与える病気があります。このような病気を総称して自己免疫疾患と呼びます。そして自己免疫疾患として代表的なものが甲状腺に起こるバセドウ病や橋本病です。その他、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、小児期に発病する1型糖尿病なども自己免疫疾患です。麻疹に感染すると麻疹ウイルスに対する抗体ができるように、自己免疫疾患では自己の細胞成分に対する抗体が作られ、これを自己抗体と呼びます。自己抗体の存在は自己免疫が起こっている重要な証拠ですので、それぞれの自己免疫疾患に特有の自己抗体を測定することで、自己免疫疾患の診断に利用することができます。

造影剤を使う検査を受けることになりました。甲状腺の病気を持っていますが、大丈夫でしょうか?

[まとめ]
バセドウ病などの甲状腺機能亢進症では、ヨード造影剤の使用により病状の悪化する可能があり、緊急性が無ければ甲状腺機能が正常な時期に受ける方が安全です。バセドウ病や橋本病では、甲状腺機能が落ち着いている状態であっても、ヨード造影剤の使用後に甲状腺機能が変化する可能性がありますので、経過観察が必要です。

[解説]
造影CT検査、腎盂・尿管造影検査や血管造影検査で使用される造影剤には大量のヨードが含まれています。大量のヨードは、甲状腺機能に影響を与える可能性があり、その使用にあたっては注意が必要です。造影剤の使用上の注意書きには、「重篤な甲状腺疾患のある患者」には使用してはいけないと、記載されています。「重篤な甲状腺疾患のある患者」は、造影剤の適正使用ガイドラインでは、甲状腺機能亢進症を指しています。そのために、ヨード造影剤を使用する際には、ほとんどの医療機関で問診票の記載を求められますが、必ず甲状腺機能亢進症かどうかを尋ねる設問が入っています。

バセドウ病の甲状腺機能亢進症の治療薬としてヨード剤を使用することもあり、解釈が難しい点もありますが、実際に甲状腺ホルモンの高い方に使用して、生命に関わる危険な状態になったという報告があります。したがって、バセドウ病の方では、造影剤を使用する検査が必要な場合、可能であれば甲状腺機能が正常な時期に受けることが勧められます。心筋梗塞など緊急性のある場合は、甲状腺機能の状態よりも心臓の病状の方が優先されますので、甲状腺機能亢進症を強力に治療しながら造影検査も行うということになります。また、甲状腺機能が正常にコントロールされているバセドウ病でも、ヨード造影剤により甲状腺機能が変化する可能性はありますが、甲状腺機能を注意深く観察していれば危険な状態になることはありません。

また、中毒性結節性甲状腺腫(甲状腺機能亢進症を伴う腺腫様甲状腺腫)ではヨードを多量に摂取すると甲状腺機能亢進症が悪化しますので、先に中毒性結節性甲状腺腫の治療を行って、甲状腺機能を正常化してから、造影剤検査を受けるようにしてください。

そのほか、橋本病でも大量のヨードが投与されると甲状腺機能が低下する可能性がありますが、危険な状態に陥る心配はありません。

ヨード造影剤には水溶性と油性の2種類の造影剤があり、先程の造影CT検査、腎盂・尿管造影検査や血管造影検査で使用される造影剤は血管内に注射するための水溶性造影剤で、注射後は速やかに体外に排泄されますので、ヨードの影響は短期間ですみます。
一方、子宮卵管造影検査、気管支造影検査でもヨード造影剤が使用されますが、これらの検査で使用される造影剤は油性造影剤です。こちらは、体内に注入後もなかなか排泄されず長くとどまりますので長期にわたるヨードの影響を考える必要があります。橋本病やバセドウ病で甲状腺機能が正常で落ち着いていても、甲状腺機能に影響が現れる可能性がありますので注意が必要です。特に橋本病の方では、不妊症のために子宮卵管造影検査を行った後、軽度の甲状腺機能低下症になる頻度は高く、この時期に妊娠が成立すると胎児の発育に影響の出る可能性が否定できませんので、子宮卵管造影検査後は注意深く甲状腺機能を観察する必要があります。

MRI検査で使用する造影剤にはヨードは含まれていませんので問題ありません。