Q1 バセドウ病の原因は何ですか?

A1 バセドウ病は、自分の体を守るための免疫が、本来反応しないはずの自分の甲状腺に異常に反応してしまうことによって起こる病気です。遺伝的な体質とストレスなどの環境要因が関係して、そのような免疫異常が起こると考えられています。

[解説]

バセドウ病は、細菌やウイルスなどの外敵から体を守るための免疫が、自分の甲状腺に反応してしまう自己免疫(→ 自己免疫と自己抗体)と呼ばれる現象によって起こる病気です。甲状腺ホルモンの分泌量は脳下垂体から分泌されるTSHの刺激によって調節されています。このTSHが甲状腺を刺激する時に結合するタンパク質がTSHレセプターで、甲状腺細胞の表面にあります。バセドウ病ではこのTSHレセプターに対して自己免疫が起こり、TSHレセプターに結合する自己抗体が作られるようになります。この自己抗体をTSHレセプター抗体と呼びます。

TSHレセプター抗体の作用
TSHレセプター抗体はTSHと同じように甲状腺細胞を刺激する作用を持っており、その刺激により甲状腺ホルモンが過剰に合成・分泌されるようになります(図)。病気でない正常な状態では、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になると、脳下垂体からのTSH分泌がストップすることにより、甲状腺への刺激もストップして甲状腺ホルモンの合成・分泌が抑えられ、調度良い状態が維持されます。ところが、バセドウ病では血液中の甲状腺ホルモンが過剰になっても、TSHレセプター抗体はそのような変化とは関係なく作られ続け、甲状腺への刺激が持続するために、血液中の甲状腺ホルモンの高くなった状態が続きます。

バセドウ病では、眼が出たり、まぶたがつり上がったり、物が二重に見えるなどの異常を伴うことがあります。これは眼の周りの組織に対しても甲状腺と同様の自己免疫が起きるためで、それは眼の周りの組織と甲状腺の組織との間に共通する自己免疫の標的があるためと考えられています。

甲状腺に対して自己免疫が起こる原因については、第一にバセドウ病を発病しやすい遺伝的な体質を持っていることがあげられます。ただしそういう体質を持っているからといって必ずしも発病するわけではありません。遺伝的な体質に加えて、環境要因が加わって発病してくると考えられています。環境要因としてもっとも大きいものはストレスです。仕事が多忙であったり、人間関係の悩みが強くなったり、受験や結婚を機に発病することもあります。また出産などの体全体の免疫状態が変動するような時に発病することもあります。

Q2 甲状腺ホルモンが高くてバセドウ病と診断されました。間違いないでしょうか?

A2 血液中の甲状腺ホルモンが高いというだけでバセドウ病と診断されてしまうことがあります。甲状腺ホルモンが高くなる病気はバセドウ病だけではありません。バセドウ病の診断の決め手はTSHレセプター抗体の測定です。

[解説]
血液中の甲状腺ホルモンが高いということだけでバセドウ病と診断され、薬が投与されることがあります。しかし、甲状腺ホルモンが高いだけではバセドウ病と言えません。バセドウ病ではないのに、間違って甲状腺ホルモンの合成を抑える薬が投与されると非常に危険な場合があります。
血液中の甲状腺ホルモンが高くなる病気の約80%はバセドウ病です。したがって、甲状腺ホルモンが高いのでバセドウ病です、と言えば80%は診断が当たるということです。でも残りの方はバセドウ病以外の病気ですので誤診ということになります。

甲状腺ホルモンが高くなる病気の中で、バセドウ病以外でよく見られるのは無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎です。亜急性甲状腺炎は、熱が出たり、甲状腺に強い痛みを伴うのでバセドウ病との区別は比較的簡単です。しかし、無痛性甲状腺炎は、ホルモンの上昇と全身的な症状からはバセドウ病との違いがほとんどありません。症状から見分ける唯一の点はバセドウ病の眼の症状があるかどうかですが、バセドウ病でも眼にほとんど変化のない方もたくさんいますので、これだけでは区別出来ません。無痛性甲状腺炎とバセドウ病を見分ける決め手はTSHレセプター抗体(→免疫異常を調べる検査)です。バセドウ病はTSHレセプター抗体が甲状腺を刺激するために甲状腺ホルモンが高くなる病気ですので、TSHレセプター抗体が高いということはバセドウ病である最も確かな証拠です。一方の無痛性甲状腺炎では高くなりません。

ただ、残念ながらあらゆる病気には例外というものがあり、バセドウ病でもTSHレセプター抗体が高くならない方、無痛性甲状腺炎でもTSHレセプター抗体が少し上昇する方がいます。このような例外的な場合にはさらに診断を正確にするために、アイソトープ検査を行います。

甲状腺ホルモンが高くなる原因には、このほか妊娠や、ホルモンを過剰に分泌する腫瘍などもありますので、妊娠していないかどうか、甲状腺に腫瘍ができていないかどうかも確認しておく必要があります。また、小児で甲状腺ホルモンが高い値を示している時に甲状腺機能亢進症と誤診されることがあります。小児のFT3、 FT4の正常範囲は成人に比べて、少し高い値のところまで正常に含みますが、検査会社からのレポートには成人の正常範囲しか記載されていませんので、その範囲を超えることがあるのです。この場合、TSHが正常範囲内であれば、異常ではないと判断してよいでしょう。

Q3 どんな時にバセドウ病や橋本病は悪くなるのですか?

A3 バセドウ病や橋本病の原因は自己免疫ですので、免疫反応が強くなるようなことがあると悪化します。よく知られている要因を以下にまとめました。

[ストレス]

バセドウ病の悪くなるきっかけとして、もっとも良く見られるのはストレスです。薬の効きが悪くなったり、急にホルモンが上がったりした時に最近の出来事について確認すると、何らかのストレスのあった方が多いのです。たとえば、転職、結婚、離婚、本人や子どもの受験、看護、配偶者の死亡などです。社会生活を送っている以上、ストレスから逃れることはできませんので、同じ事柄でもストレスと感じないもののとらえ方、身の処し方が必要です。

[出産]

血を分けた子どもといっても、他人である夫の特質も受け継いでいる胎児は母体にとっては体に入り込んだ一種の異物なのです。そのため妊娠中は胎児が異物として拒絶されないように免疫が抑制されています。出産後はその免疫の抑制が解除されて免疫反応が強くなり、それにともなって自己免疫も強くなります。バセドウ病の妊娠、出産後の経過を見ると、妊娠中は免疫の抑制の影響でバセドウ病は軽くなることが多く、抗甲状腺薬の内服量も少なくなったり、内服が不要になったりします。しかし、産後は自己免疫が強くなり、産後3から9か月頃にかけて悪くなることがたびたび見られます。そのために、産後1から2か月には甲状腺機能の確認が必要です。そして、その時に異常がなくても産後9か月ころまでは、2から3か月毎に検査を受けておきましょう。同じように、橋本病は産後1から3か月の早い時期に悪化する可能性が高く、無痛性甲状腺炎を起こしたり、甲状腺機能が低下したりします。

[花粉症]

花粉症は花粉に対するアレルギー反応によって起こることはよくご存知でしょう。花粉症などのアレルギーの病気で起こっている免疫反応は、バセドウ病の自己免疫反応と似通っていているために、花粉症にかかるとバセドウ病の病状が悪化することがあります。花粉症を伴っているバセドウ病の方は、花粉症に対する抗アレルギー剤などの治療も併せて受けておく事をお勧めします。橋本病の自己免疫反応は、花粉症の免疫反応とやや異なるため、それほど影響は受けないようです。

[ヨード]

海藻類などに多く含まれる食事中のヨードや、うがい薬、造影剤、アミオダロンという不整脈の薬などに含まれるヨードは、甲状腺機能と自己免疫に影響を与える要因のひとつです。バセドウ病では、薬が効きにくくなることがありますし、橋本病では甲状腺機能が低下してくることがあります。平均的な食生活の中でのヨード制限は基本的には必要ありませんが、過剰にはとらないようにしましょう。

[インターフェロン]

B型・C型慢性肝炎の治療でインターフェロンが使われた場合、治療開始後2?6か月でバセドウ病が悪化したり、橋本病では無痛性甲状腺炎を起こしたり、機能低下症になったりすることがあります。インターフェロン治療を行う際には、事前に甲状腺の状態を調べ、治療開始後も定期的な検査を行いますので見逃されることは通常ありませんが注意してください。バセドウ病や橋本病が悪化する可能性はかなり高いですが、インターフェロン治療が必要な場合は、肝臓がんの素地となるB型・C型慢性肝炎の治療を優先して受けてください。バセドウ病や橋本病の悪化に対しては十分に対応できます。

[ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(GnRHアゴニスト)]

主に婦人科や不妊クリニックで使用される薬です。この薬を使うと脳下垂体に働きかけて、結果として卵巣機能が低下します。女性ホルモンは減少し、排卵や月経が止まります。子宮内膜症や子宮筋腫は女性ホルモンを低下させると改善するために、この薬が治療に用いられます。男性に使用すると、男性ホルモンが低下しますので、この作用を利用して前立腺がんの治療にも使われます。不妊症の治療で体外受精を行う場合、卵子を体外に取り出しますが、これを効率良く行うために自然排卵を抑える必要があります。この目的でもこの薬が使用されます。

この薬によって女性ホルモンが急に低くなると、免疫反応が強められる現象がおこります。そのためにバセドウ病や橋本病が悪化することがあります。バセドウ病が悪化するのは投与開始後数か月から1年程度してから、橋本病で炎症が強くなってホルモンが高くなるタイプのものは投与開始2から4 か月で悪化することが多いと言われています。ただし、すべての人で悪化するわけではありません。バセドウ病や橋本病で治療を受けている方で、この薬の投与を受けることになった場合は、甲状腺の担当医にも伝えておきましょう。

[副腎皮質ステロイド剤の急な中止]

副腎皮質ステロイド剤は免疫および炎症を抑える作用のある薬で、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、気管支喘息など非常に多くの病気の治療に使われます。副腎皮質ステロイド剤を急に中止した時にバセドウ病や橋本病が悪化することがあります。副腎皮質ステロイド剤によって抑えられていた免疫が、薬がなくなったことにより、その反動として反対に免疫反応が強くなってしまうためです。副腎皮質ステロイド剤の量を減らすことでも同様にバセドウ病や橋本病の病状が変化することがありますので注意が必要です。

Q4 妊娠したので産科を受診したら血液検査で甲状腺ホルモンが高かった。治療は必要ですか?

A4 妊娠すると胎盤からのホルモンの影響で一時的に甲状腺ホルモンが高くなることがあります。多くの場合、治療を行わなくてもしだいに落ち着いてゆきます。一方、妊娠する前からかかっていたのに気付かなかったバセドウ病の可能性もあり、この場合は甲状腺ホルモンの上昇の程度にもよりますが、治療が必要です。

[解説]

妊娠した時の血液検査で甲状腺ホルモンが高くなっている原因の多くは妊娠期一過性甲状腺機能亢進症です。これは胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)と呼ばれるホルモンの影響です。多くの場合、治療を行わなくてもしだいに落ち着いてゆきます。一方、妊娠する前からかかっていたのに気付かなかったバセドウ病の可能性もあります。

妊娠初期の血液検査で甲状腺ホルモンが高い時には、それが妊娠期一過性甲状腺機能亢進症なのかバセドウ病なのかまず正しく診断し、そしてその診断された病気に対して治療が必要かどうかを判断しなければなりません。診断のためには甲状腺ホルモン検査に加えて、TSHレセプター抗体とhCGを測定します。TSHレセプター抗体が高ければバセドウ病の可能性が高いでしょう。TSHレセプター抗体が高くなっておらず、hCGが約60,000 mIU/mL以上に高くなっていれば妊娠期一過性甲状腺機能亢進症の可能性が高いと考えられます。なお、妊娠中はアイソトープ検査は行いません。

妊娠期一過性甲状腺機能亢進症は、通常は甲状腺ホルモン上昇の程度は軽く、一過性ですので治療は行わずに経過をみます。甲状腺機能亢進症の程度が強い時は一時的にヨード剤を使用することもあります。

一方のバセドウ病の時ですが、甲状腺ホルモン上昇の程度が強い時は直ちに抗甲状腺薬による治療を開始します。甲状腺ホルモンが高いまま放置していると流産の危険性が高まりますし、生まれてくる子どもの発育にも悪影響を及ぼします。治療開始の時期にもよりますが、奇形のリスクと授乳への影響を考慮して通常はプロパジールまたはチウラジールを選択します(Q10を参照)。できるだけ早く甲状腺機能を正常化することが大事です。バセドウ病は妊娠週数が進むに連れて、病気の活動性が軽くなることが多く、発見時に甲状腺ホルモン上昇の程度が軽い場合は、抗甲状腺薬を投与せずにヨード剤を投与したり、場合によっては治療をせずに経過をみることもあります。

Q5 眼が出ているため、バセドウ病を心配して甲状腺ホルモン検査を受けましたが正常であり、バセドウ病ではないと言われました。間違いないでしょうか?

A5 バセドウ病でも甲状腺ホルモンが高くならない特殊なタイプがあります。バセドウ病以外で眼の出る病気がCT検査やMRI検査で見られず、TSHレセプター抗体が高ければバセドウ病の可能性が高いと考えられます。

[解説]
眼が出ているためにバセドウ病が疑われて甲状腺機能検査を行ったのに、甲状腺ホルモンの値が正常だった場合に、バセドウ病ではないと単純に否定して良いかどうかです。まだ治療を行っていないバセドウ病は甲状腺ホルモンが高いのが普通で、眼が出る以外にも全身的に甲状腺機能亢進症の症状が現れます。ところが、バセドウ病なのに眼の異常だけが現れて、甲状腺機能には異常の出ない特殊な方があり、見逃されることがあります。

この特殊なバセドウ病と診断するには、まずはバセドウ病以外で眼が出る病気として眼球の奥の腫瘍、出血、血管の異常などが無いのかどうかCT検査やMRI検査で調べて、これらを否定しておく必要があります。そして、これらのバセドウ病以外の病気が否定できれば、甲状腺ホルモン検査には異常がなくても、TSHレセプター抗体を必ず確認しておかなければなりません。TSHレセプター抗体が高ければバセドウ病の可能性は非常に高くなります。さらにバセドウ病で起こる眼の異常には眼が出る以外にも様々な症状があり、これらが同時に見られるようであればバセドウ病でまず間違いありません。

バセドウ病では、まぶたがつりあがって、眼を見開いたようになることがあります。軽い場合ははっきりしないことがありますが、顔を動かさずに眼だけ動かして下の方を見た時に黒目と上まぶたの間に白目の見える現象が起こります。これはまぶたを引き上げる筋肉がけいれんしたり、炎症を起こしたりするために起こります。さらにまぶたの腫れがないか、ものが二重に見えないかどうかを調べます。そしてCT検査やMRI検査で眼球を動かす筋肉が腫れている場合もあります。

バセドウ病でTSHレセプター抗体も高くなっているのに眼の異常だけが出て、甲状腺ホルモンが高くならない理由については完全には解明されていません。一人の方のTSHレセプター抗体にもいろいろなタイプがあり、甲状腺を刺激する通常の抗体もあれば、逆に甲状腺の働きを抑えるタイプの抗体もあり、それらが混ざり合ったトータルとして甲状腺を刺激する作用がほとんどない場合に、このような甲状腺機能正常のバセドウ病になるのではないかといわれています。あるいは、TSHレセプター抗体の刺激を打ち消すような別の要因があるのかもしれません。さらに、甲状腺の働きを抑えるタイプのTSHレセプター抗体の働きの方が強い場合は、甲状腺機能が低下してしまうバセドウ病になることもあります。