免疫異常を調べる血液検査

甲状腺にはバセドウ病や橋本病などの免疫異常で起こる病気があります。この免疫異常を自己免疫と呼びますが、自己免疫が起きると自己抗体と呼ばれる異常な抗体が作られるので、血液中のこれらの抗体の測定は病気の診断に用いることができます。


[TgAb(抗サイログロブリン抗体)]
[TPOAb(抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体)]

いずれも主に橋本病の診断のために測定されます。サイログロブリンは甲状腺ホルモンが作られる土台になるタンパク質で、甲状腺ペルオキシダーゼはヨードを甲状腺ホルモンの骨格に結合させる酵素タンパク質です。自己免疫によってこれらの甲状腺特有のタンパク質に自己抗体が作られます。橋本病ではTgAbは90%くらい、TPOAbは70%くらいの方で陽性になります。ただし、バセドウ病でも多くの方で陽性になります。

これらの抗体自体は体に害を及ぼすものではありませんので、抗体の値が高いことについて心配する必要はありません。サイロイドテストはTgAbと同じサイログロブリンに対する抗体を測定する検査ですが、病気の検出にはTgAbの方が鋭敏です。同じようにマイクロゾームテストは甲状腺ペルオキシダーゼに対する抗体を測定する検査ですが、TPOAbの方が鋭敏です。


[TRAb(TSHレセプター抗体)]
[TSAb(TSH刺激性レセプター抗体)]

バセドウ病の診断、治療経過の評価のために測定されます。TSHレセプターは脳下垂体から分泌されたTSHが甲状腺を刺激する時に結合するタンパク質で、細胞の表面にあります。TRAbとTSAbは測定方法が異なるために名称が異なっていますが、いずれもTSHレセプターに対する抗体です。

治療前のバセドウ病ではいずれの抗体も95%以上の方で陽性になります。バセドウ病はTRAb、TSAbが甲状腺を刺激するために甲状腺のホルモン分泌が過剰になる病気であり、バセドウ病で起きてくる様々な異常の原因そのものと言えます。したがって、TRAb、TSAbが陽性であるということはバセドウ病である最大の証拠になります。

治療によってバセドウ病が鎮まってくると、免疫異常も軽くなり、TRAb、TSAbも低下してきますので、治療経過の評価のためにも測定されます。免疫異常がおさまっているかどうかの指標になりますので、バセドウ病の薬をやめても大丈夫かどうかの判断や、薬をやめた後の再発の予想などにも参考にします。

TRAbとTSAbの使い分けですが、TRAbの方が鋭敏ですので、主にこちらを測定します。バセドウ病では眼の異常をきたすことがありますが、この眼の異常の活動性に関してはTRAbよりもTSAbの方がより強く関連していますので、このような場合の評価にはTSAbが用いられます。

自己免疫と自己抗体

人間が生活している環境には、細菌やウイルスなどの有害な微生物が充ち溢れています。それらが体内に侵入してきても排除する仕組みが生まれながらに備わっており、それが免疫です。また、免疫は外からの微生物だけではなく、正常な細胞ががん化した場合も異物として認識し、そのがん細胞を排除する役目も担っています。

免疫におけるもっとも重要な機能は、自分自身(自己)と自分以外のもの(非自己)を区別する能力です。この自己と非自己を区別する仕組みは極めて巧妙にできています。世の中には無数の外敵があり、しかもそれは絶えず変化しています。このような膨大な外敵に対して免疫を発揮するために、まず免疫を担当する細胞は胎児の段階ではあらゆるものに対して反応できる能力を備えています。そして、受精してから生まれるまでの間に、自分自身として形作られてゆく臓器、細胞に対して反応する免疫担当細胞は取り除かれてゆきます。このようにして、自己に対して反応する免疫担当細胞だけをまず排除して、それらを除いた免疫担当細胞が生き残り、外敵が侵入してきた時に反応できるようになっています。

自己免疫

ところが、何らかの原因により、自己に対して反応する免疫担当細胞が再び増殖して、自己に対して免疫反応を起こすことにより体に障害を与える病気があります。このような病気を総称して自己免疫疾患と呼びます。そして自己免疫疾患として代表的なものが甲状腺に起こるバセドウ病や橋本病です。その他、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、小児期に発病する1型糖尿病なども自己免疫疾患です。麻疹に感染すると麻疹ウイルスに対する抗体ができるように、自己免疫疾患では自己の細胞成分に対する抗体が作られ、これを自己抗体と呼びます。自己抗体の存在は自己免疫が起こっている重要な証拠ですので、それぞれの自己免疫疾患に特有の自己抗体を測定することで、自己免疫疾患の診断に利用することができます。