Q5 眼が出ているため、バセドウ病を心配して甲状腺ホルモン検査を受けましたが正常であり、バセドウ病ではないと言われました。間違いないでしょうか?

A5 バセドウ病でも甲状腺ホルモンが高くならない特殊なタイプがあります。バセドウ病以外で眼の出る病気がCT検査やMRI検査で見られず、TSHレセプター抗体が高ければバセドウ病の可能性が高いと考えられます。

[解説]
眼が出ているためにバセドウ病が疑われて甲状腺機能検査を行ったのに、甲状腺ホルモンの値が正常だった場合に、バセドウ病ではないと単純に否定して良いかどうかです。まだ治療を行っていないバセドウ病は甲状腺ホルモンが高いのが普通で、眼が出る以外にも全身的に甲状腺機能亢進症の症状が現れます。ところが、バセドウ病なのに眼の異常だけが現れて、甲状腺機能には異常の出ない特殊な方があり、見逃されることがあります。

この特殊なバセドウ病と診断するには、まずはバセドウ病以外で眼が出る病気として眼球の奥の腫瘍、出血、血管の異常などが無いのかどうかCT検査やMRI検査で調べて、これらを否定しておく必要があります。そして、これらのバセドウ病以外の病気が否定できれば、甲状腺ホルモン検査には異常がなくても、TSHレセプター抗体を必ず確認しておかなければなりません。TSHレセプター抗体が高ければバセドウ病の可能性は非常に高くなります。さらにバセドウ病で起こる眼の異常には眼が出る以外にも様々な症状があり、これらが同時に見られるようであればバセドウ病でまず間違いありません。

バセドウ病では、まぶたがつりあがって、眼を見開いたようになることがあります。軽い場合ははっきりしないことがありますが、顔を動かさずに眼だけ動かして下の方を見た時に黒目と上まぶたの間に白目の見える現象が起こります。これはまぶたを引き上げる筋肉がけいれんしたり、炎症を起こしたりするために起こります。さらにまぶたの腫れがないか、ものが二重に見えないかどうかを調べます。そしてCT検査やMRI検査で眼球を動かす筋肉が腫れている場合もあります。

バセドウ病でTSHレセプター抗体も高くなっているのに眼の異常だけが出て、甲状腺ホルモンが高くならない理由については完全には解明されていません。一人の方のTSHレセプター抗体にもいろいろなタイプがあり、甲状腺を刺激する通常の抗体もあれば、逆に甲状腺の働きを抑えるタイプの抗体もあり、それらが混ざり合ったトータルとして甲状腺を刺激する作用がほとんどない場合に、このような甲状腺機能正常のバセドウ病になるのではないかといわれています。あるいは、TSHレセプター抗体の刺激を打ち消すような別の要因があるのかもしれません。さらに、甲状腺の働きを抑えるタイプのTSHレセプター抗体の働きの方が強い場合は、甲状腺機能が低下してしまうバセドウ病になることもあります。

Q15 バセドウ病眼症ではどのような症状がみられますか?

A15 バセドウ病眼症で見られる主な症状とその医学名称を表に列記します。バセドウ病の経過中にバセドウ病眼症を合併してくるのは、軽い変化の方が30%、強い変化の方が5%で、残りの方は眼には明らかな変化は現れません。

症状

医学名称

眼が出る

眼球突出

まぶたが腫れる

眼瞼腫脹(がんけんしゅちょう)

まぶたがつり上がって眼が見開いたようになる

眼瞼後退(がんけんこうたい)

さかまつげ

睫毛内反(しゅうもうないはん)

眼が乾いてしょぼしょぼする

ドライアイ

白眼とまぶたの裏側が赤く充血する

結膜充血

白眼とまぶたの裏側のむくみ

結膜浮腫

物が二重に見える

複視(ふくし)

Q16 甲状腺機能亢進症が改善すればバセドウ病眼症も良くなりますか?

A16 眼瞼後退は甲状腺機能亢進症が落ち着けば良くなることが多いのですが、それ以外の症状については、必ずしも良くなりません。

[解説]
バセドウ病眼症で現れる変化のほとんどは眼を取り巻く組織に対する直接の自己免疫によるものです。したがって、甲状腺機能の状態とバセドウ病眼症の変化には直接の関係はありません。発病時に甲状腺機能亢進症とバセドウ病眼症があって、抗甲状腺薬治療で甲状腺機能が正常化しても、必ずしもバセドウ病眼症が良くなるわけではありません。一方、眼瞼後退の原因のひとつはミューラー筋の異常な収縮であり、これは甲状腺ホルモンの過剰がその原因ですので、甲状腺機能が良くなれば多くの場合改善します。このように、甲状腺機能亢進症が落ちついても、バセドウ病眼症は必ずしも良くなりませんが、長期間経過をみていると、自然に改善することもあります。

Q17 眼瞼後退(まぶたがつり上がって眼が見開いたようになる)を治すことはできますか?

A17 交感神経の緊張による眼瞼後退は甲状腺機能が良くなれば多くの場合改善します。良くならない場合は、効果はそれ程はっきりしませんが交感神経の緊張を和らげる点眼薬を試してみてもよいでしょう。また、保険適応にはなっていませんが、ボトックスという薬剤をまぶたの筋肉に注射する方法もあります。自己免疫による炎症で起きている眼瞼後退の場合は手術で目立たなくすることができます。

[解説]
交感神経が緊張して、ミューラー筋に異常な収縮が起こることによる眼瞼後退は甲状腺機能が良くなれば多くの場合改善します。しかし、甲状腺機能が正常化してもこのミューラー筋の緊張状態が取れないことがあります。このような場合、交感神経の緊張をとるイスメリン点眼薬を用いてかなり有効な場合がありましたが、現在この点眼薬は使用できません。同様の作用を持った代わりの点眼薬を使用することもありますが、イスメリン点眼薬ほどの効果はありません。これに代わる治療として、まぶたの筋肉にボトックスという薬剤を注射する方法があります。ボトックスは美容整形でもしわ取りの治療に使用されるので名前を聞いたことのある方もあるでしょう。ボトックスは筋肉の動きをコントロールしている神経に働きかけて、筋肉を麻痺させる作用があります。この作用によってまぶたの筋肉の緊張が緩んで眼瞼後退が良くなります。注射後3から4か月で効果は薄れてゆきますので、眼瞼後退が再び強くなる場合は繰り返し注射を行う必要があります。バセドウ病の眼瞼後退には保険適応になっていませんので、実施している医療機関は限られています。

眼瞼後退には、この交感神経緊張によるもののほかに、自己免疫による上眼瞼挙筋の炎症、収縮で起こるものがあります。ステロイドパルス療法を行ってみることもありますが、有効な場合は少なく、手術による治療で改善をはかります。上眼瞼挙筋の腱とミューラー筋をそれぞれ横方向に2本、段違いに中央を越える長さで切れ目を入れて、上眼筋挙筋とミューラー筋を伸ばします。皮膚は上まぶたのふちから切開しますので、傷跡は目立ちません。

Q21 バセドウ病のために複視(物が二重に見える)が出て来ました。治すことはできますか?

A21 外眼筋に炎症が続いている時期には、ステロイドパルス療法を行います。ステロイドパルス療法に加えて放射線治療を併用することもあります。複視の改善が不十分な場合には、炎症が落ち着いた時期に手術を行います。これらの治療により、日常生活に支障のない状態に改善させることができます。

[解説]
複視は外眼筋に自己免疫による炎症が生じることにより起こります。まず、症状とMRI検査による外眼筋の評価を行い、活動性を判定します。発病後まだ長期間経っておらず、外眼筋に炎症が続いている活動性の時期には、自己免疫による炎症を抑えるためにステロイドパルス療法を行います。ステロイドパルス療法に加えて放射線治療を併用することもあります。約60%の方に有効とされています。

複視の改善が不十分な場合には、炎症が落ち着いた時期に手術を行います。伸びが悪くなっている外眼筋の眼球への付着部位を後ろへずらします。複視の程度が軽い場合は、眼鏡にプリズムを加えて矯正することもできます。これらの治療により、日常生活に支障のない状態に改善させることができます。

[メモ: バセドウ病眼症に対するステロイドパルス療法]
ステロイドパルス療法とは大量の副腎皮質ステロイド剤を短期間に集中的に注射により投与する治療法です。強力に免疫反応を抑え、炎症を軽減する目的で行われます。バセドウ病眼症以外にも、全身性エリテマトーデスなどの膠原病、慢性糸球体腎炎など多くの免疫異常による病気に対して行われます。

バセドウ病眼症では、その原因である眼球周囲の組織に対する自己免疫とそれによって生じている炎症や浮腫を抑えるために行われます。通常使用される副腎皮質ステロイド剤はソル・メドロールという静脈投与の薬剤です。標準的な投与スケジュールでは、ソル・メドロール0.5 – 1gを1日1回3日間点滴し、4日間の休薬をはさんで、これを合計3回繰り返します。重大な副作用を避けるためにはソル・メドロールの総投与量は8g以下が望ましいとされています。この範囲の投薬量における副作用としては、体重増加、胃腸障害、不眠症、動悸、軽度の肝障害などが約20%の方に見られると報告されていますが、治療を中止しなければならない重い副作用は報告されていません。それでも副作用が出ていないかどうか観察は必要ですので、入院による治療が基本です。どうしても入院治療が困難な場合は、効果は劣りますが、1回の投与量を0.25 – 0.5gにして1週間に1回外来で投与する方法もあります。

副腎皮質ステロイド剤により悪化する病気がありますので、その有無を確認してから行います。そのような病気としては、結核、糖尿病、胃・十二指腸潰瘍、精神病、B型・C型ウイルス肝炎などがあります。また、過去に結核にかかったことのある方や、精神病にかかったことのある方に対しては実施できるかどうか慎重な判断が必要です。

[メモ: バセドウ病眼症に対する放射線治療]
バセドウ病眼症に対する放射線治療は、リニアックと呼ばれる放射線発生装置を用いて行われます。放射線の照射された細胞は遺伝子にダメージが生じ、やがて活動を停止します。

バセドウ病眼症ではステロイドパルス療法と同様に、自己免疫とそれによって生じている炎症や浮腫を抑えるために行われます。バセドウ病眼症では、自己免疫により免疫担当細胞である活性化されたリンパ球が眼窩に集まって、炎症を引き起こしています。そして、そのリンパ球の刺激によって眼窩組織の線維芽細胞と呼ばれる細胞が刺激されて浮腫を起こしていると考えられています。リンパ球は眼窩にある筋肉細胞や神経細胞、脂肪細胞などに比較して、放射線に対する抵抗力が非常に弱く、放射線治療によって他の正常細胞に害を与えること無く、リンパ球だけにダメージを与えることができます。

実際の治療ですが、CT装置を用いて3次元で照射範囲を精密に設計して眼窩組織に照射します。標準の治療スケジュールでは1回2グレイの量の放射線を毎日1回、10日間続けて照射します。1回の照射に要する時間は10分以内です。一般的には土日を除いた2週間で治療は終了します。治療後に気分が悪くなったり、その後に起こるような副作用もありません。即効性はなく、効果は徐々に現れます。治療開始6か月後に効果のピークがくると言われています。通常は、ステロイドパルス療法に併用して行われますが、放射線治療を単独で行うこともあります。