Q6 バセドウ病と診断されました。どのような治療方法があるのでしょうか?

A6 バセドウ病による甲状腺機能亢進症の治療には抗甲状腺薬治療、アイソトープ治療、手術の3通りの治療法があります。

[解説]
バセドウ病による甲状腺機能亢進症の治療には抗甲状腺薬治療、アイソトープ治療、手術の3通りの治療法があります。抗甲状腺薬は甲状腺ホルモンの合成を抑える薬で、アイソトープ治療は放射線を利用した治療です。アイソトープ治療と手術は甲状腺の組織すなわちホルモンを作る場所を少なくする治療です。それぞれの治療法の長所と短所を下記にまとめました。診断された後の最初の治療法としてはどれを選んでも間違いではありませんが、ほとんどの医師は抗甲状腺薬で治療を開始しています。

–抗甲状腺薬–

長所
● 治療のための特別な設備が不要で、診断後直ちにどの医療機関でも治療を開始できる。
● 日常生活に制限が及ぶことなく治療を受けることができる。
● 生涯続く甲状腺機能低下症になることはない(アイソトープ治療、手術ではある)。
● 治療を開始してから1年以内の費用は他の治療法に比べて安い。

短所
● 副作用の可能性がある。
● 内服量、内服期間などの治療効果の個人差が大きい。
● 内服を終了できた後にも、再発の頻度が高い。

–アイソトープ治療–

長所
● 効果が確実で、治療成功後は再発しない。
● 甲状腺の腫れが小さくなる。
● 副作用の心配がない。
● 手術よりも費用が安い。

短所
● 治療のための設備が必要で、実施出来る医療機関が限られている。
● 治療前後の食事制限などの日常生活上の制約を伴う。
● 重症の場合は入院が必要。
● 治療後数か月の甲状腺機能の変動が大きい。
● 生涯続く甲状腺機能低下症になり、甲状腺ホルモン剤の内服を必要とすることが多い。
● バセドウ病で起こる眼の異常が悪化することがある。

–手術–

長所
● 3つの治療法の中で最も早く効果が得られる。
● 甲状腺の腫れが無くなる。

短所
● 熟練した外科医と手術設備が必要で、実施出来る医療機関が限られている。
● 入院が必要で日常生活が制限される。
● 手術法によっては再発の可能性がある。
● 生涯続く甲状腺機能低下症になり、甲状腺ホルモン剤の内服を必要とすることがある。
● 傷跡が残る。
● 合併症の危険性がある。
● 短期的な費用負担は3つの治療の中で最も大きい。

Q7 バセドウ病と診断されました。どの治療法を選びますかと医師から聞かれましたが、どのように判断すればよいのでしょうか?

A7 十分な知識のない状態で、ご自分ですぐに決めるのは難しいでしょう。治療法は途中でいつでも変更できますので、まずは抗甲状腺薬で治療を開始してください。アイソトープ治療や手術を選ぶ場合も、安全に治療を行うためには、まずは抗甲状腺薬で甲状腺機能を改善させてから行います。抗甲状腺薬治療を受けながらじっくり考えればよいのです。

 

[解説]
同じバセドウ病でも病状はもちろん、ライフスタイルも様々です。どの治療法を選んでも間違いではありませんが、それぞれの方にとってより適している治療法があります。ここでは、治療法を選ぶ上で考慮すべき項目について解説します。実際には、治療法はいつでも変更できますので、抗甲状腺薬治療を受けながらじっくり考えればよいのです。

 

[年齢]
小児内分泌学会から出されている小児バセドウ病に対する治療指針では、抗甲状腺薬による治療が第一選択とされています。抗甲状腺薬がきっちりと内服できないなどの問題のある場合は手術が行われます。18歳以下の方には発がん性の問題などから原則的にアイソトープ治療は行いません。

小児以外の方についてはどの治療法についても年齢による制限はありません。年齢から考慮する要素としては治療期間の問題があります。アイソトープ治療と手術において、甲状腺機能の正常化と再発の防止は、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないというトレードオフの関係にあります。できるだけ正常にしようとすれば再発が増える、できるだけ再発しないようにしようとすれば甲状腺機能は正常からはずれて低下の方向に向かいます。そして、最近は治療後の再発を避ける考え方が主流となっています。言い換えますと、アイソトープ治療と手術は甲状腺機能低下症になる可能性の高い治療法であるということです。そして、アイソトープ治療や手術で甲状腺機能低下症になると、それは生涯持続しますので、生涯にわたって甲状腺ホルモン剤の内服が必要になります。つまり、若ければ若いほど甲状腺機能低下症の治療を受ける期間が長くなるということです。この生涯にわたる甲状腺ホルモン剤の内服について抵抗感がない場合は、第一選択としてアイソトープ治療や手術は効果が確実で非常に優れた治療法です。生涯にわたる薬の服用に抵抗感がある場合は、まずは抗甲状腺薬治療を選択しましょう。1年半から2年の内服治療で約半数の方は薬の内服の必要ない状態になります。

 

[妊娠]
理想的な状態で妊娠するためには甲状腺機能が正常で安定しているということがもっとも大事です。1年以内のできるだけ早い時期に妊娠を望む方は治療効果が直ちに得られる手術を考慮しましょう。1年程度妊娠を待てる場合はアイソトープ治療も良い選択です。アイソトープ治療は放射線を使う治療であり、妊娠できなくなるのではないかと心配されるかもしれませんが、放射線による妊娠への影響は全く心配ありません。抗甲状腺薬の場合も、甲状腺機能が正常で安定していれば、内服しながら妊娠することに問題ありません。しかし、抗甲状腺薬の効果は個人差が大きく、治療開始時点で妊娠して良い状態になる時期の予測が難しい点があります。早い時期に妊娠を希望している方であっても、まずは抗甲状腺薬で治療を開始して、なかなか妊娠できる状態にならないとわかった時点で他の治療法に切り替えるのも、選択の仕方としては全く問題ありません。

 

[治療のために割く時間]
治療のためには医療機関を定期的に受診しなければなりません。治療法によって通院間隔が異なります。抗甲状腺薬治療の場合は治療開始後の3か月程度は2から3週間ごとの通院が必要です。甲状腺機能が落ち着いてくれば2から3か月に1回となり、内服が不要な状態になれば3から6か月に1回の受診となります。しかし、甲状腺機能が良い状態で安定しない場合は1から3か月ごとの通院が長期間続くことになります。アイソトープ治療と手術の場合は、通常はまず抗甲状腺薬である程度良い状態にしてから行いますので、それまでの期間は抗甲状腺薬治療と同じ通院が必要です。アイソトープ治療そのものは1から3日で治療は完了し、その後4か月間は1か月に1回の受診です。甲状腺機能に変動がなくなれば6か月に1回の受診となります。手術の場合は7から10日間入院が必要です。甲状腺機能に変動がなくなれば6か月に1回の受診となります。

仕事などの生活上のスケジュールや医療機関の所在地などの要因を考慮してご自分に適した治療法を選んでください。

 

[費用]
治療にかかる費用については、バセドウ病の方全体の平均的な費用としては比較が可能ですが、病状や治療効果は個人差が大きく、また通院に要する交通費や仕事を休んだりするための経済的損失など、それに伴って費用の考え方も大きく異なります。特に、抗甲状腺薬治療は治療効果の差が大きく、1年程度で治療を止めることのできる方もあれば、30年あるいはそれ以上の期間内服を継続している方もありますので、当然費用も大きく異なってきます。

平均的には治療開始から1年間の治療そのものの費用は健康保険3割負担として、抗甲状腺薬(5から8万円) < アイソトープ治療(10万円程度) < 手術(15から25万円程度)の順で費用は高くなります。なお、手術については高額療養費制度を適応した後の費用です。病状がある程度落ち着いた後の治療費用は1年間あたり、手術(1万円以内) ≒ アイソトープ治療(1万円以内) < 抗甲状腺薬(2から5万円)と、抗甲状腺薬治療が最も高くなります。そして、アイソトープ治療や手術で甲状腺機能低下症となった場合は、生涯にわたってこの費用が必要です。抗甲状腺薬治療の場合も内服をやめられない限りこの費用が継続してかかります。

 

[甲状腺の腫れの大きさ]
甲状腺の腫れが大きい場合は、抗甲状腺薬で甲状腺機能は良い状態にコントロールはできても、薬を中止できるところまで落ち着かないことが多いとされています。アイソトープ治療は甲状腺の腫れが大きいと必要な放射線の量がどんどん増えていき、1回の治療では効果が十分でないこともあります。手術の場合も甲状腺の腫れが大きいと出血量が増えたりして、手術が難しくなります。このように甲状腺の腫れが大きいといずれの治療も通常より難しくなります。甲状腺の腫れが大きい方に対して、アイソトープ治療や手術を行う場合も、抗甲状腺薬で十分に甲状腺ホルモンを下げてから行わないと危険を伴いますので、まずは抗甲状腺薬で治療を開始してください。甲状腺の腫れが大きくても抗甲状腺薬でうまく行く場合もありますので、その後の経過を見ながら判断すればよいのです。

 

[TSHレセプター抗体の値]
治療前のTSHレセプター抗体の高さは抗甲状腺薬の治療成績に影響します。抗甲状腺薬治療を行って、内服が不要になるところまで落ち着かせることのできる率は、TSHレセプター抗体の低い方では約75%ですが、高い方では約30%と低くなります。ただ、これはあくまでも確率の問題であって、TSHレセプター抗体が高いからといって、抗甲状腺薬治療をあきらめる必要は全くありません。

 

[腫瘍が合併しているかどうか]
バセドウ病に腫瘍が合併している場合があります。もし、まだ超音波検査を受けていないようでしたら、ぜひ受けておいてください。その腫瘍が悪性であれば、抗甲状腺薬で甲状腺機能を落ち着かせてから手術を行います。悪性のものでない場合はいろいろな要素を総合して手術するかどうか判断します。

 

[眼の異常]
バセドウ病による甲状腺機能亢進症に対して治療を行うことで、バセドウ病で起こる眼の異常もよくなるのかどうか、よくなるとすればどの治療法が一番良いのかです。甲状腺ホルモンが過剰な状態になっている時には、まぶたが引きつれて眼を見開いた状態になることがあります。この症状については全てではありませんが、甲状腺ホルモンの過剰が無くなれば、解消されます。どの治療法でも効果は同じです。しかし、眼が出ている、ものが二重に見えるなど、それ以外の眼の異常については、結論としては3つのいずれの治療法を行ってもはっきりとした効果は望めません。アイソトープ治療に関してはむしろ、眼の異常が悪化する可能性があります。したがって、目の異常を伴っている方については、抗甲状腺薬治療か手術が望ましいということになります。

 

[他の病気を合併症しているか]
心疾患、重症の糖尿病、精神障害などの合併症は甲状腺機能の変動に影響を受けますので、できるだけバセドウ病の病状を安定させておく必要があります。このような病気を合併している方は、まずは抗甲状腺薬で治療を開始してください。少量の抗甲状腺薬で甲状腺機能が安定していれば問題ありませんが、甲状腺機能が安定しない場合は、早い時期に治療方法の変更を考慮しましょう。この場合、治療効果の確実なアイソトープ治療が良いでしょう。再発しないことを目標に、すなわち甲状腺機能低下症を目標にした放射線の量で治療を行い、後は甲状腺ホルモン剤を内服して、甲状腺機能を安定させます。

Q8 バセドウ病は治りますか?

A8 3通りのいずれの治療法を選んでも甲状腺ホルモンの過剰は正常に戻ります。したがって、体調も発病前の状態に回復します。

[解説]
これまで説明した3つのどの治療法を行っても、甲状腺機能は正常に戻り、体調も発病前の状態に回復します。甲状腺機能亢進症を引き起こすTSHレセプター抗体も次第に低下し、自己免疫反応も徐々に鎮まってゆきます。ただし、甲状腺機能を正常に保つためには薬の内服の継続を要することも多く、またまったく治療が必要なくなっても、再発の可能性が残りますので、通院しなくて良い状態になるのはなかなか難しいのが実情です。この点については、それぞれの治療法の解説のところで今後より詳しく説明しています。

Q9 抗甲状腺薬が無顆粒球症や重症の肝障害などの重大な副作用で使えなくなりました。どうすればよいでしょうか?

A9 アイソトープ治療か手術による治療を行います。

[解説]
抗甲状腺薬が副作用のために使えなくなった場合は、アイソトープ治療か手術による治療を行います。それぞれの長所と短所を念頭において、いずれかの治療法を選択します。

抗甲状腺薬の副作用が原因でこれらの治療を行う場合は、特別の注意が必要です。手術の場合は手術前に抗甲状腺薬を使用せずに甲状腺機能のコントロールをどのように行うのか、アイソトープ治療の場合は治療後に甲状腺機能亢進症が一時的にかえって悪化した場合にどのように対応するのかを考えておく必要があります。

甲状腺の腫れが大きい場合はアイソトープ治療が効きにくいことに加えて、アイソトープ治療後に甲状腺機能亢進症が悪化する可能性が高いので手術を選びます。甲状腺機能亢進症が非常に強い場合や、それに加えて合併症(甲状腺以外の病気)がある場合もアイソトープ治療後に極めて重症の甲状腺機能亢進症に陥る危険性がありますのでアイソトープ治療は避けるべきです。

これらに当てはまらないバセドウ病では、アイソトープ治療で問題ありません。いずれの治療法を選んだ場合も、再発しないようにあえて甲状腺機能低下症を目標にした治療を行います。

Q10 バセドウ病と診断され、抗甲状腺薬治療を受けることになりました。妊娠を望んでいますが、妊娠したときに胎児の発育が悪くなったり、奇形の心配はありませんか?

A10 妊娠中は母体のTSHレセプター抗体の影響が胎児にも及び胎児も甲状腺ホルモンを過剰に分泌するようになるのですが、妊婦が服用している抗甲状腺薬は母体だけでなく胎児の甲状腺機能も抑えますので、胎児が無事に発育するために大事な働きをしています。安心して内服してください。ただ、妊娠初期のメルカゾール内服と、非常にまれな奇形との関係が報告され、妊娠を望んでいる場合はプロパジール、チウラジールの内服が推奨されています。

[解説]
妊娠中に薬を内服することは、胎児に悪影響を及ぼす可能性があるのでできるだけ避けるというのが一般的な考えですが、バセドウ病の場合は特殊で、妊婦が抗甲状腺薬を内服することは胎児にとっても有益なことなのです。甲状腺機能亢進症の原因であるTSHレセプター抗体は妊娠中、胎盤を通過して胎児の血液中にも流れていきます。そして、母体からのTSHレセプター抗体は胎児の甲状腺も刺激するために、胎児も甲状腺機能亢進症になってしまいます。

一方、妊婦が服用している抗甲状腺薬も同じように胎盤を通過して胎児の甲状腺に作用し、胎児の甲状腺機能亢進症を抑えます。つまり、妊婦が服用している抗甲状腺薬は母体だけでなく、胎児にとっても治療になっているのです。そして、母体と胎児の甲状腺ホルモンには強い相関があるため、妊婦のFT4を測定しながら抗甲状腺薬の内服量を調整すれば、胎児もちょうどいい甲状腺機能にコントロールできるのです。

妊婦の甲状腺機能亢進症のコントロールが不十分で甲状腺ホルモンの高い状態が続くと、流産や早産の原因になったり、生まれてきた子どもが小さいなどの悪影響があります。抗甲状腺薬を開始して、3か月以上経過して副作用の心配もなくなり、甲状腺機能も正常化していれば妊娠はいつでも可能です。

次に、奇形の問題です。健康な人の妊娠でも100人に1人くらいは外から見てわかる奇形を持った子どもが生まれるのですが、抗甲状腺薬を内服しながら妊娠してもこのような一般的な奇形の頻度は高くなりませんので安心してください。

ただし、メルカゾールを妊娠初期に内服している妊婦から生まれた子どもに、臍腸管遺残(さいちょうかんいざん)や臍帯(さいたい)ヘルニアなどという、臍(へそ)に関連した異常と、頭の皮膚の一部分が欠損している異常(頭皮欠損)が約2%の頻度で報告されました。その他、日本では少ないのですが、海外を中心に後鼻孔閉鎖や食道閉鎖といった奇形も報告されています。一方、妊娠がわかってすぐにメルカゾールをやめた妊婦やプロパジール、チウラジールを内服していた妊婦ではこれらの奇形はみられませんでした。

以上のことから、妊娠初期はメルカゾールの内服は避けたほうが無難であると考えられ、プロパジール、チウラジールの内服が推奨されています。

【具体的な対処法】
当グループで患者さんにお渡ししている こちらのリーフレット に詳しく記載していますので参照なさって下さい。