Q4 妊娠したので産科を受診したら血液検査で甲状腺ホルモンが高かった。治療は必要ですか?

A4 妊娠すると胎盤からのホルモンの影響で一時的に甲状腺ホルモンが高くなることがあります。多くの場合、治療を行わなくてもしだいに落ち着いてゆきます。一方、妊娠する前からかかっていたのに気付かなかったバセドウ病の可能性もあり、この場合は甲状腺ホルモンの上昇の程度にもよりますが、治療が必要です。

[解説]

妊娠した時の血液検査で甲状腺ホルモンが高くなっている原因の多くは妊娠期一過性甲状腺機能亢進症です。これは胎盤から分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)と呼ばれるホルモンの影響です。多くの場合、治療を行わなくてもしだいに落ち着いてゆきます。一方、妊娠する前からかかっていたのに気付かなかったバセドウ病の可能性もあります。

妊娠初期の血液検査で甲状腺ホルモンが高い時には、それが妊娠期一過性甲状腺機能亢進症なのかバセドウ病なのかまず正しく診断し、そしてその診断された病気に対して治療が必要かどうかを判断しなければなりません。診断のためには甲状腺ホルモン検査に加えて、TSHレセプター抗体とhCGを測定します。TSHレセプター抗体が高ければバセドウ病の可能性が高いでしょう。TSHレセプター抗体が高くなっておらず、hCGが約60,000 mIU/mL以上に高くなっていれば妊娠期一過性甲状腺機能亢進症の可能性が高いと考えられます。なお、妊娠中はアイソトープ検査は行いません。

妊娠期一過性甲状腺機能亢進症は、通常は甲状腺ホルモン上昇の程度は軽く、一過性ですので治療は行わずに経過をみます。甲状腺機能亢進症の程度が強い時は一時的にヨード剤を使用することもあります。

一方のバセドウ病の時ですが、甲状腺ホルモン上昇の程度が強い時は直ちに抗甲状腺薬による治療を開始します。甲状腺ホルモンが高いまま放置していると流産の危険性が高まりますし、生まれてくる子どもの発育にも悪影響を及ぼします。治療開始の時期にもよりますが、奇形のリスクと授乳への影響を考慮して通常はプロパジールまたはチウラジールを選択します(Q10を参照)。できるだけ早く甲状腺機能を正常化することが大事です。バセドウ病は妊娠週数が進むに連れて、病気の活動性が軽くなることが多く、発見時に甲状腺ホルモン上昇の程度が軽い場合は、抗甲状腺薬を投与せずにヨード剤を投与したり、場合によっては治療をせずに経過をみることもあります。

Q10 バセドウ病と診断され、抗甲状腺薬治療を受けることになりました。妊娠を望んでいますが、妊娠したときに胎児の発育が悪くなったり、奇形の心配はありませんか?

A10 妊娠中は母体のTSHレセプター抗体の影響が胎児にも及び胎児も甲状腺ホルモンを過剰に分泌するようになるのですが、妊婦が服用している抗甲状腺薬は母体だけでなく胎児の甲状腺機能も抑えますので、胎児が無事に発育するために大事な働きをしています。安心して内服してください。ただ、妊娠初期のメルカゾール内服と、非常にまれな奇形との関係が報告され、妊娠を望んでいる場合はプロパジール、チウラジールの内服が推奨されています。

[解説]
妊娠中に薬を内服することは、胎児に悪影響を及ぼす可能性があるのでできるだけ避けるというのが一般的な考えですが、バセドウ病の場合は特殊で、妊婦が抗甲状腺薬を内服することは胎児にとっても有益なことなのです。甲状腺機能亢進症の原因であるTSHレセプター抗体は妊娠中、胎盤を通過して胎児の血液中にも流れていきます。そして、母体からのTSHレセプター抗体は胎児の甲状腺も刺激するために、胎児も甲状腺機能亢進症になってしまいます。

一方、妊婦が服用している抗甲状腺薬も同じように胎盤を通過して胎児の甲状腺に作用し、胎児の甲状腺機能亢進症を抑えます。つまり、妊婦が服用している抗甲状腺薬は母体だけでなく、胎児にとっても治療になっているのです。そして、母体と胎児の甲状腺ホルモンには強い相関があるため、妊婦のFT4を測定しながら抗甲状腺薬の内服量を調整すれば、胎児もちょうどいい甲状腺機能にコントロールできるのです。

妊婦の甲状腺機能亢進症のコントロールが不十分で甲状腺ホルモンの高い状態が続くと、流産や早産の原因になったり、生まれてきた子どもが小さいなどの悪影響があります。抗甲状腺薬を開始して、3か月以上経過して副作用の心配もなくなり、甲状腺機能も正常化していれば妊娠はいつでも可能です。

次に、奇形の問題です。健康な人の妊娠でも100人に1人くらいは外から見てわかる奇形を持った子どもが生まれるのですが、抗甲状腺薬を内服しながら妊娠してもこのような一般的な奇形の頻度は高くなりませんので安心してください。

ただし、メルカゾールを妊娠初期に内服している妊婦から生まれた子どもに、臍腸管遺残(さいちょうかんいざん)や臍帯(さいたい)ヘルニアなどという、臍(へそ)に関連した異常と、頭の皮膚の一部分が欠損している異常(頭皮欠損)が約2%の頻度で報告されました。その他、日本では少ないのですが、海外を中心に後鼻孔閉鎖や食道閉鎖といった奇形も報告されています。一方、妊娠がわかってすぐにメルカゾールをやめた妊婦やプロパジール、チウラジールを内服していた妊婦ではこれらの奇形はみられませんでした。

以上のことから、妊娠初期はメルカゾールの内服は避けたほうが無難であると考えられ、プロパジール、チウラジールの内服が推奨されています。

【具体的な対処法】
当グループで患者さんにお渡ししている こちらのリーフレット に詳しく記載していますので参照なさって下さい。

Q11 抗甲状腺薬を内服中に妊娠しました。どうすればよいでしょうか?

A11 プロパジール、チウラジールを内服中の方はそのまま内服を継続して、妊娠を続けて問題ありません。メルカゾールを内服している方の場合も基本的には妊娠継続をあきらめることは勧めていません。妊娠の判明した時期によって、一時的にメルカゾールを止めることがあります。

[解説]
プロパジール、チウラジールを内服中の方は、甲状腺機能が正常に保たれるよう、そのまま内服を継続します。妊娠を続けることに問題はありません。

メルカゾールを内服している方の場合ですが、メルカゾールと関連する奇形の頻度は約2%で、そのほとんどは手術によって良くなるものです。中絶そのものにもリスクがありますので、中絶を医師の方から勧めるということはありません。このような点を十分理解した上で、妊娠を継続するかどうか判断することになります。

妊娠を継続する場合は、妊娠の判明が妊娠10週に入った後であれば、そのままメルカゾールを継続します。妊娠10週に入る前に妊娠が判明した場合は、甲状腺機能亢進症の程度とメルカゾールの必要量を考慮して、可能であればメルカゾールをいったん中止し、必要に応じてヨード剤を内服します。そして、妊娠10週以降にメルカゾールの再開を検討します。

Q18 抗甲状腺薬を内服しながら出産しました。母乳で育ててよいでしょうか?

A18 プロパジール、チウラジールの場合は1日6錠またはそれ以下、メルカゾールの場合は1日2錠またはそれ以下の内服量であれば母乳で育てても乳児に影響はありません。

[解説]
抗甲状腺薬を内服しながら母乳で育てる場合の問題は、抗甲状腺薬が母乳にも入っていくのかどうか、入るとすればどの程度の量であれば、乳児の甲状腺機能に影響を与えないかです。メルカゾールもプロパジール、チウラジールともに母親の血液から母乳に入ってゆきます。そして、メルカゾールの場合は母乳中の濃度は血液中の濃度とほぼ同じです。一方、プロパジール、チウラジールは母乳中の濃度は血液中の濃度の10分の1とかなり低くなります。

乳児の甲状腺機能への影響を考慮すると、プロパジール、チウラジールの場合は1日6錠またはそれ以下、メルカゾールの場合は1日2錠またはそれ以下の内服量であれば母乳で育てても乳児の甲状腺機能に影響はありません。また、抗甲状腺薬を服用して6時間程度経過すると母乳中の濃度はかなり低くなりますので、メルカゾールを1回3錠以上内服しなければならない場合も、服用してから6 – 8時間あければ母乳を与えても問題ありません。