Q3 どんな時にバセドウ病や橋本病は悪くなるのですか?

A3 バセドウ病や橋本病の原因は自己免疫ですので、免疫反応が強くなるようなことがあると悪化します。よく知られている要因を以下にまとめました。

[ストレス]

バセドウ病の悪くなるきっかけとして、もっとも良く見られるのはストレスです。薬の効きが悪くなったり、急にホルモンが上がったりした時に最近の出来事について確認すると、何らかのストレスのあった方が多いのです。たとえば、転職、結婚、離婚、本人や子どもの受験、看護、配偶者の死亡などです。社会生活を送っている以上、ストレスから逃れることはできませんので、同じ事柄でもストレスと感じないもののとらえ方、身の処し方が必要です。

[出産]

血を分けた子どもといっても、他人である夫の特質も受け継いでいる胎児は母体にとっては体に入り込んだ一種の異物なのです。そのため妊娠中は胎児が異物として拒絶されないように免疫が抑制されています。出産後はその免疫の抑制が解除されて免疫反応が強くなり、それにともなって自己免疫も強くなります。バセドウ病の妊娠、出産後の経過を見ると、妊娠中は免疫の抑制の影響でバセドウ病は軽くなることが多く、抗甲状腺薬の内服量も少なくなったり、内服が不要になったりします。しかし、産後は自己免疫が強くなり、産後3から9か月頃にかけて悪くなることがたびたび見られます。そのために、産後1から2か月には甲状腺機能の確認が必要です。そして、その時に異常がなくても産後9か月ころまでは、2から3か月毎に検査を受けておきましょう。同じように、橋本病は産後1から3か月の早い時期に悪化する可能性が高く、無痛性甲状腺炎を起こしたり、甲状腺機能が低下したりします。

[花粉症]

花粉症は花粉に対するアレルギー反応によって起こることはよくご存知でしょう。花粉症などのアレルギーの病気で起こっている免疫反応は、バセドウ病の自己免疫反応と似通っていているために、花粉症にかかるとバセドウ病の病状が悪化することがあります。花粉症を伴っているバセドウ病の方は、花粉症に対する抗アレルギー剤などの治療も併せて受けておく事をお勧めします。橋本病の自己免疫反応は、花粉症の免疫反応とやや異なるため、それほど影響は受けないようです。

[ヨード]

海藻類などに多く含まれる食事中のヨードや、うがい薬、造影剤、アミオダロンという不整脈の薬などに含まれるヨードは、甲状腺機能と自己免疫に影響を与える要因のひとつです。バセドウ病では、薬が効きにくくなることがありますし、橋本病では甲状腺機能が低下してくることがあります。平均的な食生活の中でのヨード制限は基本的には必要ありませんが、過剰にはとらないようにしましょう。

[インターフェロン]

B型・C型慢性肝炎の治療でインターフェロンが使われた場合、治療開始後2?6か月でバセドウ病が悪化したり、橋本病では無痛性甲状腺炎を起こしたり、機能低下症になったりすることがあります。インターフェロン治療を行う際には、事前に甲状腺の状態を調べ、治療開始後も定期的な検査を行いますので見逃されることは通常ありませんが注意してください。バセドウ病や橋本病が悪化する可能性はかなり高いですが、インターフェロン治療が必要な場合は、肝臓がんの素地となるB型・C型慢性肝炎の治療を優先して受けてください。バセドウ病や橋本病の悪化に対しては十分に対応できます。

[ゴナドトロピン放出ホルモンアゴニスト(GnRHアゴニスト)]

主に婦人科や不妊クリニックで使用される薬です。この薬を使うと脳下垂体に働きかけて、結果として卵巣機能が低下します。女性ホルモンは減少し、排卵や月経が止まります。子宮内膜症や子宮筋腫は女性ホルモンを低下させると改善するために、この薬が治療に用いられます。男性に使用すると、男性ホルモンが低下しますので、この作用を利用して前立腺がんの治療にも使われます。不妊症の治療で体外受精を行う場合、卵子を体外に取り出しますが、これを効率良く行うために自然排卵を抑える必要があります。この目的でもこの薬が使用されます。

この薬によって女性ホルモンが急に低くなると、免疫反応が強められる現象がおこります。そのためにバセドウ病や橋本病が悪化することがあります。バセドウ病が悪化するのは投与開始後数か月から1年程度してから、橋本病で炎症が強くなってホルモンが高くなるタイプのものは投与開始2から4 か月で悪化することが多いと言われています。ただし、すべての人で悪化するわけではありません。バセドウ病や橋本病で治療を受けている方で、この薬の投与を受けることになった場合は、甲状腺の担当医にも伝えておきましょう。

[副腎皮質ステロイド剤の急な中止]

副腎皮質ステロイド剤は免疫および炎症を抑える作用のある薬で、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、気管支喘息など非常に多くの病気の治療に使われます。副腎皮質ステロイド剤を急に中止した時にバセドウ病や橋本病が悪化することがあります。副腎皮質ステロイド剤によって抑えられていた免疫が、薬がなくなったことにより、その反動として反対に免疫反応が強くなってしまうためです。副腎皮質ステロイド剤の量を減らすことでも同様にバセドウ病や橋本病の病状が変化することがありますので注意が必要です。

Q19 バセドウ病は心の状態にどのように影響しますか?

A19 甲状腺ホルモンの過剰は、気分が沈んだり、不安感でいらいらしやすくなる原因になります。治療で甲状腺機能が低下しすぎても同じような状態になりやすくなります。

[解説]
まだ甲状腺機能亢進症が十分にコントロールされておらず、甲状腺ホルモンの過剰がつづいている時期には、気分が沈んだり、不安感でいらいらしやすくなります。一方、治療によって、かえって甲状腺ホルモンが下がりすぎても同じように気分が沈んだり、不安感でいらいらしやすくなり、長期間放置されるとうつ病になりやすくなります。いずれの場合も甲状腺機能異常だけがその原因であれば、甲状腺機能が正常化すれば回復します。

ところが、甲状腺機能が正常化してからも、気分が沈んだり、不安感でいらいらしやすい、といった状態の続く方がかなりあります。これはバセドウ病になる前からの性格や、日々のストレスが関係しています。このようなストレスは生活の質を落とし、バセドウ病を悪化させる要因になります。

このような場合には症状の程度にもよりますが、甲状腺の担当医と相談して、心療内科あるいは精神科受診を考えてみましょう。うつ病を合併しているような場合もあり、夜眠れない、何もする気が起きない、毎日が楽しくないというような症状の場合は、特に受診が勧められます。抗うつ薬による治療により、抑うつ、不安症状が改善するとバセドウ病そのものが良くなって抗甲状腺薬を中止できる方もいます。軽いいらいら程度の場合は抗不安薬などが処方されることも多いのですが、長期間連用はせずに頓服程度にしておいた方が無難でしょう。

まわりに気を使い過ぎて感情を押さえ込んだり、合理的に割り切って行動することができなと、ストレスがたまってバセドウ病が治りにくくなります。このような性格の方は心療内科医や臨床心理士にカウンセリングを受けて対処の仕方を身につけることにより、バセドウ病の病状改善につながることが期待されます。家族や友人の中に何でも話せる人がいればそれでも構いませんが、知人だとつい気を使ってしまって本心が話せないことがよくありますので、その場合は心療内科医や臨床心理士にかかることも検討してみてください。

Q24 バセドウ病と診断されました。日常生活はどのようにすればいいでしょうか?

A24 バセドウ病は甲状腺ホルモンが過剰になるために、発汗が異常に増える、暑がり、手の震え、動悸、食欲増加、体重減少などの症状が現れる病気です。抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の内服を開始した方の日常生活での注意点をあげました。

[解説]
●抗甲状腺薬を忘れずに内服することと副作用に注意すること
抗甲状腺薬を指示通りに内服しないと甲状腺ホルモンの過剰がなかなか改善せず、症状も取れません。改善傾向が見られていても3- 4日内服を忘れると急に悪化することがあります。また指示されたとおり抗甲状腺薬を内服していないと、薬の量の調節が難しくなります。抗甲状腺薬の副作用は、内服を開始して3か月以内に起こることがほとんどで、特に2か月間は注意してください。頻度の高いのは、かゆみや発疹など軽度のものです。まれですが、生命に関わる副作用が起こることもあります。そのひとつが無顆粒球症で、白血球の中の「顆粒球」が極度に減少して細菌に感染しやすくなります。急性扁桃腺炎を起こし、さらには全身性の感染症に進行します。急にのどが痛くなり、高熱が出てきたら、白血球検査が必要です。

●日常生活全般としては
甲状腺ホルモンが正常になるまでは、睡眠時間を十分にとり、規則的な生活が望まれます。ゆとりを持った行動をとることが大事です、例えば10分早く出勤する、重いものを持って歩かない、買い物から帰って家事をする場合にも少し休んでからするなどです。この病気は精神的ストレスにより悪化することが知られています。社会生活を送っている以上、ストレスから逃れることはできませんので、同じ事柄でもストレスと感じないもののとらえ方、身の処し方が必要です。

●仕事については
甲状腺ホルモンが高い間は心身に負担のかからないような配慮が望まれます。ハードな肉体労働の方は可能であれば一時的に負担の軽い作業への変更を申し出てください。事務作業でも長時間で密度の高い仕事の場合は勤務時間を減らしたり、適度な間隔で休憩を入れるなどの対処を考えてください。

●運動については
甲状腺ホルモンが高い間は激しい運動は控えてください。特に本格的な競技スポーツは避けるべきです。甲状腺機能が正常に戻ったら、軽い運動から始めて徐々に体をならしましょう。甲状腺機能が正常で安定して、体力も元に戻れば運動の制限は一切ありません。

●嗜好品については
喫煙については、喫煙者のほうに眼球突出が多い、病気が治りにくいというデータがありますので、ぜひ禁煙してください。アルコールはバセドウ病の治療経過には直接影響しませんが、甲状腺ホルモンが高い間は酔わない程度のほどほどに控えましょう。

●海藻類については
「海藻類は食べない方がいいでしょうか」とよく質問を受けますが、特に制限する必要はありません。海藻類に含まれるヨードは甲状腺ホルモンの材料のひとつですが、ヨード摂取を制限したほうが治りやすいという明らかな証拠はありません。現時点では海藻類は過剰にはとらないように心がけるという程度でいいでしょう。