Q7 甲状腺機能低下症の橋本病で甲状腺ホルモン剤を内服しています。妊娠を望んでいますが、なにか問題はありますか?

A7 妊娠中に甲状腺ホルモンが不足する状態にならないように、注意深く甲状腺ホルモン剤の補充量の調整を行えばまず問題はありません。

甲状腺機能が正常にコントロールされていれば、不妊の原因にはなりません。甲状腺機能正常の橋本病の方と同様に、一般の妊婦に比べて流産や早産がわずかに多くなりますが、妊娠中に甲状腺ホルモンが不足する状態にならないように、注意深く甲状腺ホルモン剤の補充量の調整を行えばまず問題はありません。その時のTSHの目標値はTSH 2.5μU/mL以下です。甲状腺ホルモン剤には副作用はなく、奇形の原因にもなりません。

また、近い時期の妊娠を考えている場合は、妊娠に備えてあらかじめ妊娠前から甲状腺ホルモン剤の補充量を調整してTSHを2.5以下にコントロールしておくことが望まれます。さらに、妊娠中は甲状腺ホルモンの必要量が30-50%増加するため、妊娠がわかったら早い時期に受診して、甲状腺ホルモン剤の補充量が適切かどうか確認を受けてください。もし、どうしても早い時期に受診出来ない場合は1週間のうち、2日だけ通常の2倍の量を内服しておきましょう。そうすれば、内服量を30%増やしたのと同じことになります。

一方、甲状腺機能のコントロールが不十分で、甲状腺機能低下症の状態にある場合は、不妊や流産、早産の原因となる場合があります。女性の月経、妊娠の維持には脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)、ならびに卵巣や胎盤から分泌される女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、hCG)が重要な働きをしています。甲状腺ホルモンはFSH、LHと伴に卵巣に直接働きかけ、女性ホルモンの分泌を助けます。また、妊娠中には胎盤のはたらきを正常に維持するためにも重要な働きをしています。したがって、甲状腺機能低下症は月経異常や不妊の原因となるばかりでなく、早産や流産の原因にもなることがあります。

最後に、最近相談をいただくことの多い母体の甲状腺機能が胎児の発育に与える影響について触れます。

母体の甲状腺ホルモンは少量ですが、妊娠の全期間を通じて胎盤を通過して胎児の血液中に入ってゆきます。妊娠初期は、胎児はまだ自分で甲状腺ホルモンを作ることができないため、母体からの甲状腺ホルモンをもらって成長しています。そして、この時期の母体からの甲状腺ホルモンは胎児の精神・神経機能の発達に重要な働きをしており、妊娠初期に母体が甲状腺機能低下症の状態にあると、子どもの知能指数がわずかに低下するとの報告があります。ただ、この知能指数に関する影響に対しては、否定的な意見もあり、見解は一致していません。日本人について報告された研究では、妊娠6 – 16週に発見された重症の甲状腺機能低下症(TSH 23.3 – 657.8)の母親から生まれた子供に知能の低下は全く見られなかったという結果が発表されています。

妊娠5か月を過ぎると、胎児は自分で甲状腺ホルモンを作り始めますので、母体のわずかな甲状腺ホルモンの異常が胎児に影響を与えることはないと考えられています。

以上のように、甲状腺機能低下症の方の妊娠においては、甲状腺機能のコントロールをより厳格に行う必要がありますが、正しく管理することで健康な女性とかわりなく、妊娠、出産ができます。