Q21 バセドウ病のために複視(物が二重に見える)が出て来ました。治すことはできますか?

A21 外眼筋に炎症が続いている時期には、ステロイドパルス療法を行います。ステロイドパルス療法に加えて放射線治療を併用することもあります。複視の改善が不十分な場合には、炎症が落ち着いた時期に手術を行います。これらの治療により、日常生活に支障のない状態に改善させることができます。

[解説]
複視は外眼筋に自己免疫による炎症が生じることにより起こります。まず、症状とMRI検査による外眼筋の評価を行い、活動性を判定します。発病後まだ長期間経っておらず、外眼筋に炎症が続いている活動性の時期には、自己免疫による炎症を抑えるためにステロイドパルス療法を行います。ステロイドパルス療法に加えて放射線治療を併用することもあります。約60%の方に有効とされています。

複視の改善が不十分な場合には、炎症が落ち着いた時期に手術を行います。伸びが悪くなっている外眼筋の眼球への付着部位を後ろへずらします。複視の程度が軽い場合は、眼鏡にプリズムを加えて矯正することもできます。これらの治療により、日常生活に支障のない状態に改善させることができます。

[メモ: バセドウ病眼症に対するステロイドパルス療法]
ステロイドパルス療法とは大量の副腎皮質ステロイド剤を短期間に集中的に注射により投与する治療法です。強力に免疫反応を抑え、炎症を軽減する目的で行われます。バセドウ病眼症以外にも、全身性エリテマトーデスなどの膠原病、慢性糸球体腎炎など多くの免疫異常による病気に対して行われます。

バセドウ病眼症では、その原因である眼球周囲の組織に対する自己免疫とそれによって生じている炎症や浮腫を抑えるために行われます。通常使用される副腎皮質ステロイド剤はソル・メドロールという静脈投与の薬剤です。標準的な投与スケジュールでは、ソル・メドロール0.5 – 1gを1日1回3日間点滴し、4日間の休薬をはさんで、これを合計3回繰り返します。重大な副作用を避けるためにはソル・メドロールの総投与量は8g以下が望ましいとされています。この範囲の投薬量における副作用としては、体重増加、胃腸障害、不眠症、動悸、軽度の肝障害などが約20%の方に見られると報告されていますが、治療を中止しなければならない重い副作用は報告されていません。それでも副作用が出ていないかどうか観察は必要ですので、入院による治療が基本です。どうしても入院治療が困難な場合は、効果は劣りますが、1回の投与量を0.25 – 0.5gにして1週間に1回外来で投与する方法もあります。

副腎皮質ステロイド剤により悪化する病気がありますので、その有無を確認してから行います。そのような病気としては、結核、糖尿病、胃・十二指腸潰瘍、精神病、B型・C型ウイルス肝炎などがあります。また、過去に結核にかかったことのある方や、精神病にかかったことのある方に対しては実施できるかどうか慎重な判断が必要です。

[メモ: バセドウ病眼症に対する放射線治療]
バセドウ病眼症に対する放射線治療は、リニアックと呼ばれる放射線発生装置を用いて行われます。放射線の照射された細胞は遺伝子にダメージが生じ、やがて活動を停止します。

バセドウ病眼症ではステロイドパルス療法と同様に、自己免疫とそれによって生じている炎症や浮腫を抑えるために行われます。バセドウ病眼症では、自己免疫により免疫担当細胞である活性化されたリンパ球が眼窩に集まって、炎症を引き起こしています。そして、そのリンパ球の刺激によって眼窩組織の線維芽細胞と呼ばれる細胞が刺激されて浮腫を起こしていると考えられています。リンパ球は眼窩にある筋肉細胞や神経細胞、脂肪細胞などに比較して、放射線に対する抵抗力が非常に弱く、放射線治療によって他の正常細胞に害を与えること無く、リンパ球だけにダメージを与えることができます。

実際の治療ですが、CT装置を用いて3次元で照射範囲を精密に設計して眼窩組織に照射します。標準の治療スケジュールでは1回2グレイの量の放射線を毎日1回、10日間続けて照射します。1回の照射に要する時間は10分以内です。一般的には土日を除いた2週間で治療は終了します。治療後に気分が悪くなったり、その後に起こるような副作用もありません。即効性はなく、効果は徐々に現れます。治療開始6か月後に効果のピークがくると言われています。通常は、ステロイドパルス療法に併用して行われますが、放射線治療を単独で行うこともあります。