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自己免疫と自己抗体

人間が生活している環境には、細菌やウイルスなどの有害な微生物が充ち溢れています。それらが体内に侵入してきても排除する仕組みが生まれながらに備わっており、それが免疫です。また、免疫は外からの微生物だけではなく、正常な細胞ががん化した場合も異物として認識し、そのがん細胞を排除する役目も担っています。

免疫におけるもっとも重要な機能は、自分自身(自己)と自分以外のもの(非自己)を区別する能力です。この自己と非自己を区別する仕組みは極めて巧妙にできています。世の中には無数の外敵があり、しかもそれは絶えず変化しています。このような膨大な外敵に対して免疫を発揮するために、まず免疫を担当する細胞は胎児の段階ではあらゆるものに対して反応できる能力を備えています。そして、受精してから生まれるまでの間に、自分自身として形作られてゆく臓器、細胞に対して反応する免疫担当細胞は取り除かれてゆきます。このようにして、自己に対して反応する免疫担当細胞だけをまず排除して、それらを除いた免疫担当細胞が生き残り、外敵が侵入してきた時に反応できるようになっています。

自己免疫

ところが、何らかの原因により、自己に対して反応する免疫担当細胞が再び増殖して、自己に対して免疫反応を起こすことにより体に障害を与える病気があります。このような病気を総称して自己免疫疾患と呼びます。そして自己免疫疾患として代表的なものが甲状腺に起こるバセドウ病や橋本病です。その他、関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病、小児期に発病する1型糖尿病なども自己免疫疾患です。麻疹に感染すると麻疹ウイルスに対する抗体ができるように、自己免疫疾患では自己の細胞成分に対する抗体が作られ、これを自己抗体と呼びます。自己抗体の存在は自己免疫が起こっている重要な証拠ですので、それぞれの自己免疫疾患に特有の自己抗体を測定することで、自己免疫疾患の診断に利用することができます。

造影剤を使う検査を受けることになりました。甲状腺の病気を持っていますが、大丈夫でしょうか?

[まとめ]
バセドウ病などの甲状腺機能亢進症では、ヨード造影剤の使用により病状の悪化する可能があり、緊急性が無ければ甲状腺機能が正常な時期に受ける方が安全です。バセドウ病や橋本病では、甲状腺機能が落ち着いている状態であっても、ヨード造影剤の使用後に甲状腺機能が変化する可能性がありますので、経過観察が必要です。

[解説]
造影CT検査、腎盂・尿管造影検査や血管造影検査で使用される造影剤には大量のヨードが含まれています。大量のヨードは、甲状腺機能に影響を与える可能性があり、その使用にあたっては注意が必要です。造影剤の使用上の注意書きには、「重篤な甲状腺疾患のある患者」には使用してはいけないと、記載されています。「重篤な甲状腺疾患のある患者」は、造影剤の適正使用ガイドラインでは、甲状腺機能亢進症を指しています。そのために、ヨード造影剤を使用する際には、ほとんどの医療機関で問診票の記載を求められますが、必ず甲状腺機能亢進症かどうかを尋ねる設問が入っています。

バセドウ病の甲状腺機能亢進症の治療薬としてヨード剤を使用することもあり、解釈が難しい点もありますが、実際に甲状腺ホルモンの高い方に使用して、生命に関わる危険な状態になったという報告があります。したがって、バセドウ病の方では、造影剤を使用する検査が必要な場合、可能であれば甲状腺機能が正常な時期に受けることが勧められます。心筋梗塞など緊急性のある場合は、甲状腺機能の状態よりも心臓の病状の方が優先されますので、甲状腺機能亢進症を強力に治療しながら造影検査も行うということになります。また、甲状腺機能が正常にコントロールされているバセドウ病でも、ヨード造影剤により甲状腺機能が変化する可能性はありますが、甲状腺機能を注意深く観察していれば危険な状態になることはありません。

また、中毒性結節性甲状腺腫(甲状腺機能亢進症を伴う腺腫様甲状腺腫)ではヨードを多量に摂取すると甲状腺機能亢進症が悪化しますので、先に中毒性結節性甲状腺腫の治療を行って、甲状腺機能を正常化してから、造影剤検査を受けるようにしてください。

そのほか、橋本病でも大量のヨードが投与されると甲状腺機能が低下する可能性がありますが、危険な状態に陥る心配はありません。

ヨード造影剤には水溶性と油性の2種類の造影剤があり、先程の造影CT検査、腎盂・尿管造影検査や血管造影検査で使用される造影剤は血管内に注射するための水溶性造影剤で、注射後は速やかに体外に排泄されますので、ヨードの影響は短期間ですみます。
一方、子宮卵管造影検査、気管支造影検査でもヨード造影剤が使用されますが、これらの検査で使用される造影剤は油性造影剤です。こちらは、体内に注入後もなかなか排泄されず長くとどまりますので長期にわたるヨードの影響を考える必要があります。橋本病やバセドウ病で甲状腺機能が正常で落ち着いていても、甲状腺機能に影響が現れる可能性がありますので注意が必要です。特に橋本病の方では、不妊症のために子宮卵管造影検査を行った後、軽度の甲状腺機能低下症になる頻度は高く、この時期に妊娠が成立すると胎児の発育に影響の出る可能性が否定できませんので、子宮卵管造影検査後は注意深く甲状腺機能を観察する必要があります。

MRI検査で使用する造影剤にはヨードは含まれていませんので問題ありません。

亜急性甲状腺炎と診断されました。どんな病気ですか?

甲状腺が破壊されて血液中の甲状腺ホルモンが高くなる病気です。症状の特徴は甲状腺の部位の強い痛み、発熱、血液中の甲状腺ホルモンの上昇の3つです。かぜ症状が先にあって、しばらくして発病することもしばしばみられます。

原因は何らかのウイルス感染によるものと推測されていますが、原因となるウイルスは見つかっていません。典型的な経過としては、まず甲状腺の右側または左側のどちらか一方に非常に硬い甲状腺の腫れが現れ、その部位に強い痛みを伴います。それと同時に、38度以上の発熱がみられます。そして、甲状腺機能亢進症(中毒症)による症状を伴います。

その後は、甲状腺の腫れと痛みは発病時と反対側に移動し、最終的には治療をしなくても数か月をかけて治癒します。血液中の甲状腺ホルモンは下の図のように変動します。また、炎症の有無を調べるCRPという項目が高くなるのが特徴です。バセドウ病で高くなるTSHレセプター抗体も高くなりません。ほとんどかぜと区別できないくらいの軽い痛みと微熱だけの場合や、甲状腺機能亢進症の症状がはっきりしないなど典型的でない方もしばしばみられます。

亜急性甲状腺炎

治療をしなくても最終的に治ると説明しましたが、症状は非常につらく、できるだけ早期に症状を取るために通常は治療を行います。痛みやその他の症状の程度が軽い場合は、非ステロイド性消炎鎮痛剤を内服しますが、通常は副腎皮質ステロイド剤を内服します。副腎皮質ステロイド剤を内服すると、ほとんどの場合1 – 3日で発熱、甲状腺の痛みは無くなり、甲状腺の腫れも急速に小さくなります。症状が落ち着いていれば、ゆっくりと副腎皮質ステロイド剤の内服量を減らしてゆき、最終的に投薬を終了します。薬の減量が早すぎると、再度痛みや熱が出てきますので、減量は慎重に行います。

治癒後に甲状腺ホルモンが正常の状態に戻っていればその後の通院の必要はありません。時に、治癒後も甲状腺機能が完全に正常に戻らずに、甲状腺ホルモンの不足する状態が続く時があり、この場合は甲状腺ホルモン剤を内服します。

甲状腺の病気 パーフェクトアンサー115

甲状腺の病気に対する一般の方の疑問について徹底して答える本として2010年11月に出版した「甲状腺の病気 パーフェクトアンサー106」が、この度改訂第2版として2013年12月26日に「甲状腺の病気 パーフェクトアンサー115 –疑問と悩みを徹底解決–」として出版されました。

115のQ&Aで、症状や検査、診断、薬、手術、アイソトープ、妊娠・出産、眼などへの不安や悩み・疑問に徹底回答しています。医師向けガイドブックと同レベルの内容をわかりやすく表現しています。

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